興行的にも批評的にも厳しい結果になった“いわくつき作品” 『ボーダーランズ』の真価を検証
だが、それよりもやはり問題なのは、原作のゲーム作品の本質的な快感が、本作で得られないという部分だ。具体的には、18歳、もしくは17歳以上対象として提出されている、流血などを含む暴力的な表現やスプラッター表現である。日本では「ヒャッハーしようぜっ！」などというキャッチコピーが採用されているように、無法者として野蛮なバトルができるというのがシリーズの醍醐味なのだ。対して本作はアメリカの映画レーティング「PG-13」に落ち着いたことから分かるように、比較的ソフトな表現に抑えられている。
そもそも本作を手がけたのは、イーライ・ロス監督なのである。『ホステル』シリーズ や『グリーン・インフェルノ』（2013年）など、ゴア描写満載で評判を呼んだ監督が、暴力表現満載の『ボーダーランズ』を撮るのだから、バイオレントな映画になることを期待するのは当然のことだ。『デッドプール』シリーズのバイオレンスを凌駕し、映画史に残るような残忍かつポップなエンターテインメント作品にすることも可能だったはずなのである。とくに本作が批評家に嫌われたのは、監督の個性が発揮されてないように見られたからだろう。
最終的に提出されたのは、子どもでも鑑賞が可能な、刺激の少ないアクションシーンだ。もちろん、対象年齢が広い作品の方が間口が広く、ヒットするための観客の母数が増えることは言うまでもない。だからこそ大作映画は、往々にしてレーティングを下げようとする。
とはいえ、本作のような作品で年齢層を下げる意味はあったのだろうか。『デッドプール』シリーズがR指定作品の記録を塗り替えたように、本作ではその線を狙うべきだったのではないか。それでは興行面で不安だと言うのなら、予算を削減してでもゴア表現を守る戦略を取る方が正解だったと思えるのである。
製作については、もともとR指定作品として撮られたのにもかかわらず、撮影後、ポストプロダクションの段階で惨劇のようなアクションシーンがカットされたという内部情報があるという噂もある。（※）公式見解ではないので鵜呑みにはできないが、少なくともそのようなシーンがあれば、本作の評価は全く違ったものになった可能性がある。
このように興行的な結果の理由を探っていけば、ゲーム原作映画を興行的に成功させる要因として大きなものは、やはり原作の魅力をそれなりに活かし、分かりやすくアピールするということだと考えられる。それが達成されていなければ、たとえ映画自体が良い出来であっても、足をすくわれる可能性があるのだ。
だが、一方でファンダムの動きが、ときに有害な方向に作用することもあるという事実も忘れてはならない。ゲーム作品で性的マイノリティの設定を追加したり、同性愛や性別についての選択を増やす試みをするだけで、保守的な層が否定的な反応を示し分断を煽ることで売り上げに影響するほどのネガティブな喧伝をしてしまう場合もある。この点については、スタッフにマイノリティがいる可能性を無視したり、作り手側の試みを阻害するという意味において憂慮するべき事態だといえる。
ゲーム作品を原作とすることは、映画業界では難しいとされていた時代があった。だが近年、その種のヒット作品が次々と生み出され始めているのは、CG技術の進歩によって、映画とゲームとの垣根が低くなったことで、表現の幅が広がったことに起因していると考えられる。しかし同時に、映画の作り手の方向性や会社のマーケティングは、その分野で興行的成功を収めたいのであれば、良くも悪くも新たな基準で、さまざまな要素を加味しながら考え直さねばならない時期が到来しているのも確かなことだろう。
参照
※ https://www.thegamer.com/borderlands-more-violet-gorey-before-pg-13-rating-change/?utm_source=chatgpt.com
■配信情報
『ボーダーランズ』
Prime Videoにて配信中
出演：ケイト・ブランシェット、ケヴィン・ハート、ジャック・ブラック、エドガー・ラミレス、ジェイミー・リー・カーティス、アリアナ・グリーンブラット
監督・脚本：イーライ・ロス
製作：アリ・アラッド、アヴィ・アラッド、エリック・フェイグ
脚本：ジョー・クロンビー
原作：Gearbox Software『Borderlands』
2024年／アメリカ／101分／原題：Borderlands
(R), TM & (C) 2024 Lions Gate Ent. Inc. Borderlands is a trademark of Gearbox. All Rights Reserved.
公式サイト：https://klockworx-v.com/borderlands/
