スパイドラマ屈指の男女バディ? Netflix『ブラック・ダヴ』はクリスマスシーズンこそ必見

『ブラック・ダヴ』は最も理想的なバディ作品

 ヘレンはジェイソンを熱烈に愛していたが、夫のことも確かに愛している。なのに彼女は彼をだましつづけなければならない。そのために過剰なほど完璧な妻、完璧な母を演じるヘレンの努力は、見方によっては痛々しくさえある。だが、愛する人をあざむくことの苦しさと絶望を、本作で最も痛切に表現しているのは、サムと元恋人のマイケル(オマーリ・ダグラス)の関係だろう。エピソード3の終盤、サムがマイケルの盾になりながらアパートから決死の脱出をするシーンは、ふたりのそれぞれの感情が渦を巻き、もつれあいながら画面からあふれ出してくるかのようで、息苦しいほどの濃密さで観る者を圧倒する。

 誰もがみずからを偽らざるをえないこの作品世界において、唯一自分の真の姿をお互いにさらけ出し、真の意味で信頼し合っているのがヘレンとサムだ。決してロマンチックな関係にはなりえないこのふたりは、人間が望みうる最も高貴で理想的な関係にあるようにも思える。また、両者とも最高のスキルを持つプロフェッショナル——もっとも、サムのほうには「優しすぎる」という欠点があるのだが——であり、スマートでいつまでも観ていたくなるコンビだ。

 ヘレンとサム以外のキャラクターも面白い。通常なら退屈な寝取られ男として描かれてしまいそうなウォレスも、ヘレンが惹かれつづけているのも納得の魅力の持ち主だ。殺し屋のウィリアムズ(エラ・リリー・ハイランド)も、サムの元雇い主であるレニー(キャスリン・ハンター)も、登場して数分でこちらの心をつかんでしまう。すでにセカンドシーズンの制作が決定しているそうで、魅力的なキャラクターたちの次なる活躍を期待したい。

 さて、謎だらけの殺人事件から始まったこのドラマは、いったいどこへ向かうのかという急展開を繰り返し、スリルをたっぷり提供した挙句、クリスマスにふさわしい愛の物語へとたどり着く。どの季節に観ても面白いドラマだけれど、できればぜひともクリスマスシーズンのご鑑賞をお薦めしたい。

■配信情報
Netflixシリーズ『ブラック・ダヴ』
Netflixにて独占配信中
監督:ジョー・バートン
出演:キーラ・ナイトレイ、ベン・ウィショー、サラ・ランカシャー、アンドリュー・コージほか

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