『クレイヴン・ザ・ハンター』の“狩り”が意味するものとは? 反転するキービジュアル
本作のラストシーンは、クレイヴンがキービジュアルと同じ服をまとい「クレイヴン・ザ・ハンター」となる場面である。毛皮の房のついた、アウトローでたくましい男性の象徴とも言える服。
しかし父が遺したそれは、幼き日のセルゲイを襲い彼の肉体に力を与えたライオンの毛皮で作られたもの……ニコライが仕留めて部屋に壁掛けの剥製として飾っていた、“狩られた”象徴でしかなかったものだ。椅子に座り鏡に映されたクレイヴンの姿は外見的・肉体的には強い男性性の頂点ですらあるが、キービジュアルとポージングが左右反転した彼の姿にはそうした威厳はかけらもない。そこにいるのは鏡の枠によって壁掛けの剥製同然にされた、父に(より正確には父が象徴していた抗いがたい力に)魂を狩られた哀れな獲物だ。
そう、「クレイヴン・ザ・ハンター」という伝説的ライオンを「狩る」ところにこの作品のゴールはあった。キービジュアルと共に全てが反転するこの幕切れは、ヒーローではなくヴィランが主人公の本作だからたどり着けた絶望的に美しい結末だ。
本作は『スパイダーマン』関連のスピンオフを展開するソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)の1作であるが、残念ながらSSUはここで一旦終了するらしいという報道がが既に発表されている(※1)。同じくクレイヴンを主役とした『クレイヴンズ・ラストハント』までの映像化をJ・C・チャンダー監督が構想しているのを考えれば無念な話だが、一方でだからこそ私たちは本作の結末に正面から向き合えるとも言えるだろう。再開を願いたいところではあるが、続編での救済という甘っちょろい期待でこのバッドエンドの味わいを濁してしまうべきではない。救いのない終わり方の作品だが、本作を観終えてその暗さに狩られてしまうかどうかはあなた次第である。
参照
※1 https://realsound.jp/movie/2024/12/post-1874362.html
■公開情報
『クレイヴン・ザ・ハンター』
全国公開中
出演:アーロン・テイラー=ジョンソン、アリアナ・デボーズ、フレッド・ヘッキンジャー、アレッサンドロ・ニヴォラ、クリストファー・アボット、ラッセル・クロウ
日本語吹替版:津田健次郎(クレイヴン“セルゲイ・クラヴィノフ”役)、山路和弘(ニコライ役)、入野自由(ディミトリ役)、田村睦心(カリプソ役)、堀内賢雄(ライノ“アレクセイ”役)、鈴木崚汰(少年セルゲイ“クレイヴン”役)、上村祐翔(少年ディミトリ役)
監督:J・C・チャンダー
脚本:アート・マーカム&マット・ホロウェイ、リチャード・ウェンク
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
レーティング:R15+
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