横浜流星、佐野弘樹、宮田佳典が重宝される理由 作り手と俳優の“幸福な関係”とは?
映画やドラマ、演劇といったフィクション作品は、私たちの生きる現実社会の鏡だ。とすれば、それぞれの物語世界の中で生きる俳優たちは、私たち一人ひとりの鏡に映った存在だともいえるだろう。俳優たちは自らの心と身体に特定のキャラクターを宿すスペシャリストだが、それ以前に我々と同じく生活者である。そんな彼ら彼女らの動向から、いまの時代や社会を“読む”ことができるのではないだろうか。横浜流星、佐野弘樹、宮田佳典の動きに注目してみたい。
俳優という職業は、個人だけでは成り立たない。そこに映画やドラマや舞台といった作品があり、作り手と関係を結ぶことで、彼ら彼女らの職能はこの社会に顔を出す。作り手との関係がどのようなものであるのかが重要だ。
横浜流星
横浜流星の主演最新作『正体』(2024年)は、『青の帰り道』(2018年)をはじめ、『ヴィレッジ』(2023年)やNetflix映画『パレード』(2024年)など、これまでに何度もタッグを組んできた藤井道人監督による作品だ。
出演作の公開・放送が続き、いまでは見かけぬ日がないほどの横浜だが、藤井監督もまた「精力的」などの言葉では形容できないレベルで作品を発表し続けている人物だ。もちろん、作品ごとにその看板を背負う俳優たちは異なる。作品のテイストや登場人物のタイプがそれぞれ異なるのだから、作品ごとに俳優が変わるのは当然だろう。
けれども藤井監督の作品には、たとえば『ヤクザと家族 The Family』(2021年)の綾野剛のように、藤井組の常連俳優として座組の軸となる存在がいる。そのうちのひとりが横浜だ。彼なら脇にまわって作品に強度を与えることができるし、作品の顔としてトップを走り続けることもできる。タッグが続く理由は、やはり圧倒的な信頼関係なのだろう。
最新作の『正体』で横浜が演じているのは、死刑判決を受けた脱獄囚の鏑木慶一。彼は名前や身分を偽り、変装を繰り返しながら、343日間もの逃亡劇を繰り広げていく。凶悪殺人犯として逮捕された彼は、何を目的として脱獄を図ったのかーー。重厚な内容もさることながら、この主人公はとにかく走る。演じる横浜には、精神的にも肉体的にも相当な負荷がかかり続けたに違いない。どんな作品でもそうだが、こういった作品はとくに、作り手と俳優の厚い信頼関係がなければ実現しないだろう。幸福な関係である。