『室井慎次 生き続ける者』の結末に感じた悲しさ 『踊る大捜査線』新作に望む“原点回帰”

『室井慎次』2部作の結末に感じた悲しさ

 杏と言えば、室井の住む近所に店を構える商店の店主である市毛きぬ(いしだあゆみ)とのシーンも気になった。杏を家に迎えた室井に対し「女の子は大変だから」と同じカットで2度も話すきぬの姿には強い違和感を覚える。どんな子どもだって育てるのは大変だ。なぜここまで“女の子”を強調するのだろう。元々『踊る』シリーズ、特に『MOVIE 2』あたりからは女性を失態を犯す軽薄な存在として描いてきた節があった。『MOVIE 2』における沖田(真矢ミキ)や『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!!』において時東ぁみが演じた犯人グループのひとりはその典型例だ。

 本作における同場面の杏に対する言葉の数々や、児童相談所の総務班長である松本敬子(稲森いずみ)の描き方は『踊る』シリーズ後期における女性軽視の姿勢が改めて表出してしまったシーンであり、時代錯誤的であったと言わざるを得ない。ドラマシリーズでは女性に対する暴力を絶対に認めない青島や恩田すみれ(深津絵里)を描いていた作り手なだけに、後年の作品における女性キャラクターの描き方には不満が残る。

 本作最終盤において室井慎次は死ぬこととなるのだが、その死に様もシリーズのファンとして残念であった。子どもを守るためにリクの父親である柳町明楽(加藤浩次)と死闘を繰り広げた室井は、柳町が外へ放った愛犬・シンペイを吹雪の中で追いかけて行方不明となる。室井慎次というこれまでシリーズを通して第2の主人公として愛されたキャラクターの結末がこんな形であったことに、私はシリーズのファンとして率直に悲しさと怒りを覚えてしまった。

 室井の死は明確に、例えば病室でバイタルが止まったり、あるいは葬式が開かれたり、もしくは墓石が映し出されたり、そういったわかりやすい形で映し出されることはしなかった。描かれたのは室井の家に地域住民や新城(筧利夫)が訪れ、花を手向けたり“室井モデル”なる所轄と本庁の連携捜査についてのモデルを残していくシーンのみだった。それは例えば『THE MOVIE』で刺された青島が息絶えたと思ったら寝ていたように、あるいは『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』で身体を一瞬透明に映し出すことで死を予感させた恩田すみれが本作でまだ存命であることが示唆されたように、室井もまた生き続けている可能性もあるのかとも感じさせる幕切れであった。しかし本作のパンフレットを読むとプロデューサーである亀山千広氏によって室井の死が公言されており、やはり亡くなったものとして描いていることがわかる。

 こうした結末を迎えた本作であったとしても、ポストクレジットシーンの青島登場、そして新作『踊る大捜査線 N.E.W.』の制作決定のニュースに、決して胸が踊らなかったと言えば嘘になる。室井亡き後の『踊る』シリーズで、青島がどんな活躍を見せるのか。そしてここまで記してきた本作の残念だった部分を払拭してくれるのか。青島が地味な事件をひとつひとつ解決する和久平八郎(いかりや長介)の背中に学んだように、青島もまた後進、例えば本作で警察を志すことを示唆していたタカに、現場の刑事としての矜持を継承してほしい。

■公開情報
『室井慎次 敗れざる者』
『室井慎次 生き続ける者』
全国公開中
出演:柳葉敏郎、福本莉子、齋藤潤、前山くうが、前山こうが、松下洸平、矢本悠馬、生駒里奈、丹生明里(日向坂46)、松本岳、佐々木希、筧利夫、甲本雅裕、遠山俊也、西村直人、赤ペン瀧川、升毅、真矢ミキ、飯島直子、小沢仁志、木場勝己、稲森いずみ、いしだあゆみ
プロデュース:亀山千広
脚本:君塚良一
監督:本広克行
音楽:武部聡志
配給:東宝
©フジテレビジョン
公式サイト:https://odoru.com/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/odoru_movief
公式Instagram:https://www.instagram.com/odoru_project

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