『ウィキッド』大ヒットで北米の映画館は数年ぶり活況 一方で“配信スルー”めぐり問題も
こうして、ハリウッドでは「コロナ前」への回帰が期待される一方、そのコロナ禍で台頭してきたストリーミング業界では不穏な動きが起きている。それが、冒頭に触れたAppleと『ウルフズ』ジョン・ワッツ監督の不和だ。
当初、『ウルフズ』は世界的に拡大公開される予定で、日本でも公開が決まっていたが、Appleがこれを撤回。北米の一部劇場のみで公開され、あとはApple TV+の独占配信作品としてリリースされた。突然の決定に、ジョージ・クルーニーやブラッド・ピット、ワッツ監督も大きく落胆したという。
ワッツ監督によると、映画の出来を喜んでいたAppleは、続編の脚本執筆をすぐに監督へ依頼したという。しかし、『ウルフズ』の公開方針の変更は「事前に説明も話し合いもなく」決定されたもので、この事実を通知されたのは正式発表の1週間前だった。
「私は大きなショックを受け、続編の脚本を執筆していることは告知しないでくれと頼みました。しかし、その要求は無視され、おそらくストリーミングへの方針転換をポジティブに見せるためでしょう、(続編製作は)プレスリリースで発表されたのです。だから、続編のためにもらったお金はそっと返しました」
ワッツ監督はこうしてAppleへの信頼を失い、『ウルフズ』の続編をキャンセルした。Appleが配信部門の収益を懸念し、予算を大幅に見直していることは以前から報じられていたが、予想以上のスピードで事態は良くない方向へ進展しているようだ。
問題が生じているのはAppleだけではない。Netflix映画『ナイブズ・アウト』シリーズの主演俳優ダニエル・クレイグは公開戦略をめぐってテッド・サランドスCEOと衝突したと報じられ、Amazonで『ロードハウス/孤独の街』(2024年)を手がけたダグ・リーマン監督も、劇場公開の契約を一方的に破棄されたことへの不満をあらわにしている。Amazonは『レッド・ワン』の拡大公開で「劇場公開では宣伝費だけ回収できればよい」とのビジネスモデルを実践しているが、その陰では別の動きもあるということだ。
コロナ禍でストリーミング企業が強力な作品ラインナップを手にできたのは、時勢を受けて映画スタジオが見送った中規模・小規模作品を拾い、クリエイターに対して十分な予算と創作上の自由を与えたことだった。だからこそキャリアを問わず、決して少なくないフィルムメイカーがNetflixやAmazon、Apple TV+などを信頼したのである。
ここにきて、業績が伸び悩むストリーミング企業も岐路に立たされている。しかし、劇場公開の機会も少なく、作り手の意志も軽視されるなら、その場所で映画を撮りたいフィルムメイカーはいないだろう。その先に待つのは、映画館&映画スタジオが栄光を取り戻す未来か、劇場と配信が新たに共存する道か、それとも映画界すべてがゆるやかに沈んでいく世界か。今この地点が、もはや誰にも予想できない大きな分岐点かもしれない。
北米映画興行ランキング(11月22日〜11月24日)
1.『ウィキッド ふたりの魔女』(初登場)
1億1400万ドル/3888館/累計1億1400万ドル/1週/ユニバーサル・ピクチャーズ
2.『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』(初登場)
5550万ドル/3573館/累計5550万ドル/1週/パラマウント・ピクチャーズ
3.『レッド・ワン』(↓前週1位)
1328万ドル(-58.6%)/4032館(変動なし)/累計5291万ドル/2週/Amazon・MGM
4.『Bonhoeffer: Pastor. Spy. Assassin.(原題)』(初登場)
512万ドル/1900館/累計512万ドル/1週/Angel Studios
5.『ヴェノム:ザ・ラストダンス』(↓前週2位)
400万ドル(-45.4%)/2558館(-863館)/累計1億3382万ドル/5週/ソニー
6.『The Best Christmas Pageant Ever(原題)』(↓前週3位)
350万ドル(-33.4%)/2279館(-741館)/累計2551万ドル/3週/ライオンズゲート
7.『Heretic(原題)』(↓前週4位)
223万ドル(-55%)/1622館(-1608館)/累計2476万ドル/3週/A24
8.『野生の島のロズ』(↓前週5位)
200万ドル(-52.6%)/2110館(-784館)/累計1億4072万ドル/9週/ユニバーサル
9.『Smile 2(原題)(↓前週6位)
111万ドル(-62%)/952館(-1510館)/累計6775万ドル/6週/パラマウント
10.『リアル・ペイン~心の旅~』(↓前週9位)
110万ドル(-50.3%)/1185館(変動なし)/累計495万ドル/4週/サーチライト・ピクチャーズ
(※Box Office Mojo、Deadline調べ。データは2024年11月25日未明時点の速報値であり、最終確定値とは誤差が生じることがあります)
参照
https://www.boxofficemojo.com/weekend/2024W47/
https://deadline.com/2024/11/wolfs-sequel-demise-jon-watts-george-clooney-brad-pitt-no-longer-trusted-apple-1236186227/
https://deadline.com/2024/11/wicked-jon-m-chu-interview-1236185586/
https://variety.com/2024/film/box-office/wicked-opening-day-record-gladiator-2-projections-1236218685/
https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/wicked-box-office-gladiator-ii-opening-1236070020/
https://deadline.com/2024/11/box-office-wicked-gladiator-ii-1236184897/
https://www.worldofreel.com/blog/2024/10/17/rian-johnson-amp-daniel-craig-not-happy-with-knives-out
■公開情報
『ウィキッド ふたりの魔女』
2025年春全国ロードショー
出演:シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデ、ジョナサン・ベイリー、イーサン・スレーター、ボーウェン・ヤン、ピーター・ディンクレイジ、ミシェル・ヨー、ジェフ・ゴールドブラム
監督:ジョン・M・チュウ
製作:マーク・プラット
脚本:ウィニー・ホルツマン
原作:ミュージカル劇『ウィキッド』作詞・作曲:スティーヴン・シュワルツ/原作:ウィニー・ホルツマン
配給:東宝東和
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