『踊る大捜査線 THE FINAL』が掲げる“組織論”にモヤモヤ 青島と室井の“約束”は最新作へ

『踊る大捜査線 THE FINAL』の組織論に疑問

 『THE MOVIE 3』で係長へと昇進した青島は『FINAL』でも引き続き係長として部下を従えながら事件解決に粉骨砕身する。湾岸署管内で誘拐が絡む殺人事件が発生し、署には捜査本部が設置されることとなる。事件は警視庁捜査一課の刑事による犯行であることが明らかとなり、上層部は隠蔽工作を行う。その一方で青島の部下が捜査本部設置の準備のためにお茶と水を用意するはずが、誤って缶ビールを用意してしまう。税金でお酒を購入したことがバレると上司である自分自身がクビになってしまうと焦った青島は、事件解決の傍らで缶ビール購入の隠蔽を行う。現場の刑事として常に正しいことをしたいと願い続け、室井とも正しいことをするために約束を交わしたはずだった青島俊作が、現在進行系で自身を警察から追い出そうとしている上層部と同じ隠蔽工作を重ねている。『踊る大捜査線』という作品、現行の組織体制に対するカウンターとして存在感を高めてきた青島俊作という刑事の物語の最後にしてはあまりにも虚しく、悲しくはないだろうか。我々が憧れ、室井が信頼した青島俊作の姿は何処に、と考えずにはいられない。

 ストーリー最終盤で犯人の隠蔽工作を企てた上層部は辞職を勧告される一方、ビールの件で青島はお咎めもなくなあなあで終わっていく。こうなってしまうと作り手の“現場”や”組織”への考え方にも疑問が浮かんでしまう。組織全体が一蓮托生となって目標に向けて取り組もうという気概ではなく、現場の言う事には一切口を出すな、口を出すような上層部は許さない、というメッセージだけが結果的に浮かび上がってしまっている。ドラマシリーズではお互いの事情をぶつけ合いながらもなんとか良いバランスで着地させようとしていた現場とキャリアの関係が、完全に崩壊してしまったのが『踊る大捜査線 THE FINAL』だった。

 青島と室井の「約束」についても一応の終止符が打たれることとなるものの、これほどのシリーズの軸となった要素の結論としては残念だと言わざるを得ない。だからこそ現在公開の『室井慎次』2部作に期待しているファンも多いのではないだろうか。『FINAL』で打たれた終止符のその先にある室井の姿、そして青島の現在、ふたりの「約束」はどうなったのか。『室井慎次』を楽しむための道筋として『踊る大捜査線 THE FINAL』もチェックしてほしい。

■放送情報
映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』
フジテレビ系『土曜プレミアム』にて、11月16日(土) 21:00~23:35放送
出演者:織田裕二、柳葉敏郎、深津絵里、ユースケ・サンタマリア、小栗旬、香取慎吾ほか
監督:本広克行
脚本:君塚良一
製作:亀山千広
プロデューサー:立松嗣章、上原寿一、安藤親広、村上公一
製作:フジテレビジョン アイ・エヌ・ピー
©2012フジテレビジョン アイ・エヌ・ピー

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