『踊る大捜査線 THE FINAL』が掲げる“組織論”にモヤモヤ 青島と室井の“約束”は最新作へ

『踊る大捜査線 THE FINAL』の組織論に疑問

 1997年からドラマシリーズがスタートした『踊る大捜査線』が、2012年の劇場版第4作『踊る大捜査線 THE FINAL』で一旦のピリオドを打つまで15年に渡り支持された理由は、本作が一貫して描いてきた組織論にある。

 主人公の青島俊作(織田裕二)は市民のために日夜働く現場の刑事であり、現場第一主義を貫く存在として描かれてきた。組織における庇い合いや官僚主義にNOを突きつけ、出世にも興味を示さずに直属の上司や組織における上層部に対しても食って掛かる青島の様は、警察だけでなくすべての組織に属する視聴者・観客に痛快さを与え続けてきた。

 そんな青島と対を成すもうひとりの主人公として描かれてきた室井慎次(柳葉敏郎)は、キャリア組として官僚主義の真っ只中で働きながらも青島と共鳴し、青島のような現場の刑事が働きやすい環境を作り出すために警察組織の改革を誓う。常に「現場の君たちを信じる」と口にし続けてきた室井慎次の存在もまた、現場の気持ちを汲み理解してくれる理想的な上司の姿として、特にビジネスパーソンの視聴者や観客にとっては憧れの存在であった。

 警察組織の改革は、やがて青島と室井の「約束」となり、ドラマシリーズ以降のスペシャルドラマや劇場版作品では常にこの「約束」が『踊る』シリーズの推進力となった。『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』ではリストラされた会社員が会社役員を連続して殺害するストーリーが展開する。終盤で青島は犯人グループに対して「リーダーが優秀なら、組織も悪くない」と誇らしげに告げる。上司と部下が理解し合い、組織をより良くしたいと誓い合い、時には内部のやっかみや政治的な圧力も受けながらも背中を預け合う姿はすべての組織人にとっての理想形だ。

 現場の青島が「リーダーが優秀なら、組織も悪くない」と言うように、室井もまた「部下が優秀なら、組織も悪くない」と考えている。ドラマシリーズ第4話で室井はわざわざ青島を湾岸署から本庁の捜査一課に引き寄せ、ゆくゆくは捜査一課への推薦まで考えていると告げた。室井が青島を早い段階から評価し、信頼していたことがわかるエピソードだ。青島のような優秀な現場の刑事が捜査をしやすい環境にすることが、警察が正しく犯罪を取り締まることに繋がると室井は考えており、青島と室井の関係はお互いが信頼を寄せられる能力のある存在であることが大前提の関係性なのだ。その意味でシリーズに一旦のピリオドを打った『踊る大捜査線 THE FINAL』における青島の姿は、室井が信頼を寄せる正義感の強い刑事には見えず、その姿に残念さを感じてしまう観客も多かったのではないだろうか。

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