人間がダークサイドに墜ちる瞬間 極上サスペンス映画『対外秘』を特徴づける2つの要素
11月15日から公開となる『対外秘』は、1990年代の釜山を舞台に、国会議員選挙の当選を目指すヘウンと、彼の運命を握る黒幕のスンテ、そして一獲千金をもくろむヤクザのピルドの攻防を描いたポリティカルフィクションである。
監督を務めたのは、マ・ドンソク主演の『悪人伝』(2019年)が韓国で300万人を超える観客動員を記録したイ・ウォンテ。『悪人伝』は、シルヴェスター・スタローンによるハリウッドリメイクが進行中とのニュースも聞こえてきている。
『対外秘』で主人公のヘウンを演じているのは、パク・チャヌクの『お嬢さん』(2016年)で注目され、『最後まで行く』(2014年)や、『毒戦 BELIEVER』(2018年)などの韓国ノワールの主演作もヒットを記録し、またドラマ『シグナル』(2016年)などでも存在感を示してきたチョ・ジヌン。
黒幕のスンテを演じるのは、ドラマ『ミセン-未生-』(2014年)の上司役や、映画『KCIA 南山の部長たち』(2020年)や『ソウルの春』(2023年)などで重厚な演技を見せてきたイ・ソンミン。また、ヘウンと手を組むヤクザのピルドを、『悪人伝』ではマ・ドンソクの相棒役を、反対に『犯罪都市 PUNISHMENT』(2024年)では、マ・ドンソクと敵対する役を演じて印象を残したキム・ムヨルが演じた。
映画の冒頭は、チョ・ジヌンの持つ雰囲気もあってか、和やかでコミカルだ。選挙にかける実直な議員が、多少の困難にぶつかりながらも、正しい道を歩むハートフルなお話なのかな……などと思っていた自分の間違いにしだいに気付くことになっていく。
事の始まりは、黒幕のスンテにあった。次期大統領選を狙う中央の政治家たちが、釜山の土地で一儲けして選挙資金にしようと考え、スンテの元にやってきたのだった。スンテは、海雲台の開発を提案し、元々、公認にしようと考えていたへウンではなく、聞き分けの言い、別の候補を公認候補に立てようと提案する。
この日から運命の歯車が狂ってしまったのはへウンである。公認になるからと言って借金していたヤクザのピルドが家にまで取り立てにやってくる。事実を知って黙っていられないのがウォンテである。スンテにコケにされたことがわかると、彼の宣戦布告を受けてたつのだった。
そのときのへウンは、温厚で善良そうなキャラクターから一変、頭に血がのぼっているのがわかる。彼の中にも、たぎるものがあったのだ。
へウンは同窓の仲間で市役所に勤めるムン本部長を使って、海雲台開発の機密資料を手に入れ、これを使って一発逆転をしようとヤクザのピルドと手を組むのだった。もちろん、機密文書は茶封筒に入っている。
この茶封筒が象徴的に使われるノワール作品は多い。古くは香港の『インファナル・アフェア』(2002年)で、トニー・レオン演じるヤンが、アンディ・ラウ演じるラウ刑事がデスクに残していた茶封筒に残る文字を見たのがきっかけで、ラウの正体を知り、物語が急展開する。また『新しき世界』(2013年)でも、イ・ジョンジェ演じるジャソンは、ファン・ジョンミン演じるチョン・チョンの棚の中に隠してあった茶封筒を見て、それまでは見えていなかったすべてのことを知るのである。
そう考えると、『対外秘』は、両作品へのオマージュのような部分があるのではないかと思えてくる。