キム・テリ、『ジョンニョン』主演抜擢は必然だった 感情の機微を全身で表現する魂の名演
そして彼女の初のドラマ出演となった『ミスター・サンシャイン』では、日本とアメリカのはざまで混乱に陥る朝鮮を救うため、両班の娘ながら男装して義兵となるコ・エシンを演じた。tvNドラマとしては歴代4位、2018年に放送された地上波を含むミニシリーズとしては最高視聴率を獲得するなど愛される作品となったのは、やはりキム・テリ扮するエシンに魅了されるファンが多かったからだ。育ちの良さからあふれる上品さと、ほとんど荒らげることがない落ち着いた声。舞台設定となった1871年、良家の子女は刺繍をして日々を過ごし家の決めた許嫁と結婚する人生が当然である中、エシンはただ黙って咲く美しい花ではなく自ら空へ舞い飛ぶ花火のように生きたいと口にする。愛したユジン(イ・ビョンホン)に対しても、捧げるというより自身の選択として彼の手を取る姿が強く印象に残っている。
『ミスター・サンシャイン』以来3年ぶりにドラマ復帰となった『二十五、二十一』は、1998年のIMF経済危機を背景に出会ったヒド(キム・テリ)とイジン(ナム・ジュヒョク)の恋愛と成長を描くロマンチックコメディだ。フェンシングの名手だったヒドは、財政難で廃部になってしまうもがむしゃらに夢を追い続ける。不況で家族が崩壊し絶望の中にいたイジンは、ヒドの屈託なさに触れて回復していく。「ありのままの感情を出す」ことがヒド演じるための秘訣だったそうだが、キム・テリにしか出せない日差しのような明るさに救われた視聴者も多かったことだろう。“韓国のゴールデングローブ賞”と呼ばれる百想芸術大賞ではテレビ部門最優秀演技賞を受賞し、映画だけでなくドラマでも存在感を示した。
さらにヒドの愛くるしさから凄まじい変貌ぶりを見せたのが、2022年に韓国で放送されたオカルトサスペンス『悪鬼』だ。名脚本家キム・ウニが綿密に考証して作り上げた正統派の本作は、その性質上好みに左右されるかと思われたが、キム・テリの文字通りの怪演がお茶の間を釘付けにし、最終回には最高視聴率11.2%を記録した。世知辛い現代を苦労しながら生きるサンヨンと、彼女が邪悪な悪霊に取り憑かれた姿とを完全に演じ分け、本当にキム・テリの中に“何かが入っている”かのような変貌を見せた。
韓国では、“その人が出演していれば素晴らしさが保証されているという俳優”を“信じて見る俳優”という言葉で称える。キム・テリもその1人に数えられるが、それは高い演技力だけでなく、役柄を通じて励ましや慰めを届けてくれるからに他ならない。感情の機微を全身全霊で表現する役者キム・テリが見せるジョンニョンがこの先どのように成長していくか、最後まで見届けたい。
参考
※1 https://s.cinemacafe.net/article/2024/10/18/94446.html
※2 柳敏榮・著、津川泉・訳『韓国演劇運動史』(風響社)
※3 https://www.hankookilbo.com/News/Read/202005191863789802
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『ジョンニョン:スター誕生』
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