芸能人のパワハラ問題とも切り離せない 韓国ドラマの頻出ワード「カプチル」とは?

韓国ドラマの頻出ワード「カプチル」とは?

 『復讐代行人 ~模範タクシー~』では、会社内で起きた暴力事件のエピソードで「カプチル」という単語が頻出する。そのほかにも、福祉施設と地元企業、警察が共謀して障害者を食い物にしたり、または生活保護受給家庭の生徒をターゲットに苛烈ないじめを加えたりといった、あらゆるカプチルを言葉やセリフだけでなく、目に見える構造で描くのも本作の特徴だ。韓国人権委員会のWebマガジン(※1)によれば、富や権力で弱者を抑圧するカプチルには、韓国社会が協力的で水平的な関係ではなく、垂直的で不公平な関係を中心に構成されていることがはっきり表れているという。潜在的な階級社会である韓国では、あらゆるシーンにカプチルが浮き彫りになるのだ。

 韓国ドラマのカタルシスに一役買うのみならず、実際の社会をより良いほうへ力強く動かすエネルギーでもある、カプチルへの怒り。だが近年、別の問題も起きている。以前より取り沙汰されていた、アイドルやスターたちがマネージャーやヘアメイクなどスタッフに暴言を吐いたり、尊大な態度を取る“芸能人カプチル問題”がさらに拡大し、スターがファンに対する態度も“カプチルではないか?”と批判されるようになったことだ。

 例えば今年、『ソンジェ背負って走れ』でライジングスターに躍り出たピョン・ウソクがアジアファンミーティングのために空港を出発しようとした際、彼のボディーガードたちが警備のためにラウンジ利用客の航空券をチェックしたり、フラッシュを向けたりしたことが過剰警護として非難を浴びた。警備業者はのちに謝罪したが、直接関係のないピョン・ウソク本人にも飛び火し、“芸能人は官職なのか?”と揶揄する記事(※2)もあった。

 富と名声を得た芸能人はたしかに特権を持つ者だとも言えるため、振る舞いにカプチルが垣間見えることもあるだろう。だが一方で、違法薬物疑惑により私生活にまでバッシングを受け、自ら命を絶ったイ・ソンギュンのことを考えたい。彼の代表的なドラマ『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』のキム・ウォンソク監督の言葉(※3)を借りるなら、顧客である視聴者や観客の愛を受けなければ存在できない芸能人たちも、視点を変えてみればカプチルの犠牲になる。人間には誰しも、自分の中に積もった不満を、より弱い存在に向かって吐き出す暴力的な一面がある。甲と乙が様々な脈絡で突如入れ替わる社会の宿命について、我々はより慎重に学ばなければならないのかもしれない。

参照
※1. https://www.humanrights.go.kr/webzine/webzineListAndDetail?issueNo=7602456&boardNo=76024
※2. https://www.mk.co.kr/jp/entertain/11066534
※3. https://moviewalker.jp/news/article/1222541/

■配信情報
『復讐代行人 ~模範タクシー~』
Netflixにて配信中
出演:イ・ジェフン、イ・ソム、キム・ウィソン
制作:パク・ジュンウ、オ・サンホ、イ・ジヒョン
(写真はSBS公式サイトより)

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