銀幕でオカルトが爆破炎上 とんでもない“勇気”が炸裂する『破墓/パミョ』の衝撃

“勇気”が炸裂する『破墓/パミョ』の衝撃

 アメリカのとある韓国系大富豪一家を、常識では考えられない出来事、アンビリバボーが襲っていた。一族の跡継ぎが謎の病気を患い、時には命を落としていたのだ。さらにアンビリバボーの魔の手は、生まれたばかりの赤ん坊にも迫っている。一族は藁にもすがる思いで、韓国から凄腕の若き霊媒師ファリム(キム・ゴウン)と、その弟子ボンギル(イ・ドヒョン)を呼び出した。渡米した2人はアンビリバボーの正体を速攻で見抜く。「一族の墓に問題がある」。ファリムは一族の先祖の墓を調べるため、韓国へと舞い戻る。そして土地の風水を見る達人サンドク(チェ・ミンシク)と、彼の相棒的存在の葬儀師ヨングン(ユ・ヘジン)を助っ人に、問題の墓を探るのだが……。それは、想像を絶するアンビリバボーの始まりであった。

 韓国で大ヒットを記録した『破墓/パミョ』(2024年)は、前半の丁寧な前フリから、後半にとんでもない勇気が炸裂する作品だ。そう、この映画のジャンルは「勇気」である。ホラーであり、サスペンスであり、オカルトだが、何よりもこの映画は「ジャンル・勇気」だ。それほどまでに後半から凄まじい展開が観客を待っている。その勇気に敬意を表し、本作の監督を務めたチャン・ジェヒョンのことは、これから先輩と言わせてもらおう。私は『The Witch/魔女』(2018年)のパク・フンジョン監督のことも勝手に先輩だと思っているが、ジェヒョン監督も今日から私の先輩である。この人のように真っすぐな道を歩んでいきたいものだ。ちなみに板垣恵介の『バキ』も好きだそうなので、これらの点でも勝手に親近感を覚えようと思う。

 先輩の映画は一貫している。オカルトへの異常な好奇心と、しかしマニアックになりすぎず、あくまでエンターテインメント性を忘れないことだ。ブレイク作となった『プリースト 悪魔を葬る者』(2015年)は韓国を舞台にしたエクソシストもので、悪魔祓いの儀式を丁寧に見せてくれた。一方で、クライマックスは『ワイルド・スピード』シリーズ(2001年~)くらいのド派手なカークラッシュが炸裂! 悪魔より交通安全に気持ちが揺らぎそうなシーンではあったが、とにかく先輩のエンタメマインドには感心した。続くNetflix配信作品『サバハ』(2019年)は、仏教やキリスト教が入り乱れる、ある種のオカルトだんじり祭りのような世界観で見せつつ、「あ、そういうこと!?」と、パズルのピースがピタっとハマるような丁寧な脚本で観客を圧倒。ド派手なパワー型映画から、丁寧なミステリー映画まで、「オカルト」を題材に何でも作る男、それがジェヒョン先輩なのである。本作でも先輩の姿勢はそのままだ。むしろ過去最高に先輩のパワースタイルな部分が爆裂している。

 前半のオカルトミステリー/宗教バトル感は『サバハ』を思い起こさせる丁寧さと情報量である。風水や韓国の民間信仰にまつわる固有名詞が飛び交い、なんとなくニュアンスは掴めるが、正直、すべてを初見で理解するのは不可能だろう。この辺をもっと把握したい人は、劇場でパンフレットを買ってみてほしい。韓国の宗教(特に風水系)についての説明が充実した力作で、映画を何倍も楽しめる立派な副読本である。そんな情報量で圧倒しつつ、キム・ゴウンの熱演が光る巫堂(ムーダン、祈祷師みたいな感じの役割です)のド迫力の儀式シーンや、チェ・ミンシクが見せるさりげない、しかしカッコいいプロっぽさ(土を食うのが大好き)、アッセンブルした霊媒師たちのチーム感、そして怪奇現象もしっかり見せる。棺が開かれるや否や、韓国から即渡米して人を祟る悪霊のスピード感よ。次々と出てくるビックリドッキリ怪死模様も輝いている。そして後半にとんでもない物が登場してからは、文字通り銀幕でオカルトが爆破炎上。映画としてのギアが上がると言うか、ほとんど怪獣映画の領域へ突撃する。特に日本の観客にとっては、アレの存在が衝撃的すぎるだろう。実際、満席の劇場で観ている時に観客全員が「!?」と、『少年マガジン』的な感情で絶句してしまった。……いや、私が勝手にそう思っているだけかもしれないが。

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