直球の勧善懲悪アクション! Netflix『武道実務官』は突き抜けたカタルシスのある傑作に

『武道実務官』はカタルシスのある傑作に

 イ・ジョンドは爽やかで人懐っこく、物腰は誠実さで溢れている。このザ・好青年なキャラクターは重い題材を扱う本作に清涼感を与えている。注目すべきは、ともすればわざとらしくなってしまう好青年なキャラクターを説得力たっぷりに演じているキム・ウビンの存在感だろう。好奇心に溢れた瞳と人好きのするような笑顔はデカいワンちゃんのようであり、一目観るだけで心つかまれるような魅力を放っている。特に上司に飲みに誘われるシーンは今後一生「年上キラー」と呼ばれてもおかしくないほどの愛嬌だ。

 それからジョンドとバディを組む保護観察官キム・ソンミンのキャラクターもいい。武術の腕で保護観察対象を鎮圧するイ・ジョンドに対し、キム・ソンミンは言葉を尽くして保護観察対象の再犯を防ぐ。まさに互いに足りない要素を補い合う理想のバディだ。また、イ・ジョンドに対する物腰柔らかな態度は理想の“包容力ある年上男性”そのものだ。イ・ジョンドは言葉で最善を尽くすキム・ソンミンを尊敬しているし、キム・ソンミンも人懐っこく誠実な人柄を持つイ・ジョンドを信頼している。『武道実務官』の続編、あるいはシリーズ化を望む声をよく目にするが、それはこの二人の関係性に依るところが大きいのではないかと思う。

 イ・ジョンドのキャラクター性は後半になるにつれて暗くなる物語を見事に緩和するだけでなく、推進剤にもなっている。享楽主義だった青年が凶悪犯と対峙し、絶望的な状況に陥りながらも正義を為そうともがく姿はとても引き込まれる。キム・ジュファン監督は『ミッドナイト・ランナー』(2017年)や『ブラッドハウンド』(2023年)でも主人公の好青年を凄惨な組織犯罪に立ち向かわせていたが、その手腕が見事に発揮されたと言える。

 こうして振り返ってみると『武道実務官』はキム・ジュファン監督の集大成的な傑作だ。明るいトーンと凄惨な組織犯罪との見事なバランスや、『ディヴァイン・フューリー/使者』(2019年)でも描かれていたような年の差バディ。そして格闘家の青年が巨悪に立ち向かうというプロット。キム・ジュファン監督作品の全部があるだけでなく、それらの要素がより洗練されている。『武道実務官』が実に王道的な勧善懲悪エンターテインメントでありながら突き抜けた面白さがあるのはキム・ジュファン監督が自ら得意とする要素を盛りに盛り込んだ結果だと言える。

 というわけで『武道実務官』はキム・ジュファン監督だからこそ可能にした王道であり、突き抜けたカタルシスのある傑作だ。性犯罪者がたくさん出てくるという点では間違いなく人を選ぶが、とにかく面白すぎるので秋の夜長などに是非おすすめしたい。

■配信情報
『武道実務官』
Netflixにて独占配信中

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