『虎に翼』寅子が“見本”として示した声をあげることの意義 “無数の雨だれ”は続いていく

『虎に翼』寅子が“見本”として示したもの

 法曹界に女性が少なかった時代に先頭に立って活躍した三淵嘉子さんをモデルにしたNHK連続テレビ小説『虎に翼』が完結した。

 主人公・寅子(伊藤沙莉)が最後まで、自分の道は自分で決める、たとえ間違っていても正しくなくても他人には指図されたくない、という確固たる思いに貫かれていたことを傲慢に感じる視聴者もいただろう。ただ、このドラマが、失われた30年、自分のせいではまったくなく、低迷する一方の社会状況下、活躍の場が少なく、忍耐を強いられてきた世代の思いを体現していると思えば、「なるほど」(航一(岡田将生)の声で)とも思うのだ。

 どうせ変わらないからと諦めちゃっている人たちに、声をあげていいんだよ、いや、声をあげようよ、と寅子は見本を示したのではないだろうか。

 最終回の一回前、女性が法に携わるのも学ぶのも反対だと言った桂場(松山ケンイチ)。最終回では、いびつで不平等な社会は変わらないと続けた。しかし寅子は声をあげ続ければいつか変わるかもしれないと前向きに答える。それはまるで彼女が忌み嫌っていた石を穿つ「雨だれ」にほかならないではないか。

 寅子は他者に雨だれになれと言われるのではなく、自ら選んで雨だれになるならいいと悪びれない。もうずっと疑問視されてきた穂高(小林薫)問題――恩師の善意を生涯ゆるさなかった寅子の真意とは、彼女の意思を穂高が先回りして勘違いして摘もうとしたことに彼女は怒り続けた。寅子は一貫して自分が選択することを求めてきた(それはごもっともだがもうちょっと穏便にね、と筆者は老婆心で思ったが)。だからこそ、娘の優未(川床明日香)にも好きなことを自由にやってほしいと望み、彼女のやることに口を挟まなかった。その結果、寅子が亡くなって15年が経った、平成11年(1999年)、優未は、実家で、着付けと茶道教室を行い、雀荘勤務も続け、寄生虫の雑誌の編集もやっている。好きなことを全部、ちょっとずつ、あたかもバイキングのようにやっている。そして、登戸の花江(森田望智)とひ孫の世話まで。たぶん、80代の航一の世話もしているだろう。だが、航一は子どもたちに縛られず自由でいたいという理由で老人ホームに入ろうとしている(おそらくほんとは子どもたちの負担にならないようにと思ってのことであろう)。

 個人的な話だが、筆者が20代のとき、あれもこれもやりたいと言ったら上司に、「ひとつでも成功すれば、あれもこれもやれるようになるから、まずひとつをしっかりやれ」と言われたことがあった。結果あれもこれもやったすえ、確かに踏ん張ってひとつのことをやったほうがあとあと、よかった気がすると思ったものの、自分の意思でいろいろを選択したので悔いはない。これが、上司に言われたことをやって失敗していたら上司をうらんでいたであろう。自分で選択するということは自分で責任を持つということでもあるのだ。

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