『虎に翼』滝藤賢一の全てを包み込む笑顔 “家庭裁判所の父”多岐川が見せる最後の勇姿

『虎に翼』滝藤賢一の全てを包み込む笑顔

 「はて?」が口癖の寅子(伊藤沙莉)を主人公に、今を生きる人々にも気づきを与えてきた『虎に翼』(NHK総合)。放送も残すところ約2週間となり、物語は最後の総仕上げに入っている。

 家庭裁判所の発足から20年が経ち、寅子は東京家裁少年部部長に就任。未成年による凶悪犯罪、学生運動の激化など、時代とともに少年犯罪の形は大きく変化しているが、一人ひとりの背景に寄り添う寅子の向き合い方は変わらない。

 一方、世間では少年犯罪の厳罰化を求める声が高まり、政府の手によって少年法改正が進められようとしている。そんな中、思い起こされるのは、「法律は人が幸せになるためにある」という多岐川(滝藤賢一)の言葉だ。

 桂場(松山ケンイチ)、久藤(沢村一樹)、多岐川の3人はともに穂高(小林薫)の教え子で、明律大学の同期。タイプはバラバラなのに、意外と相性がいいこのコンビは視聴者の間でも大人気だ。3人の中でも、特に癖強めなのが多岐川。験担ぎに庭で滝行をしたり、仕事場でスルメを焼いたり、眠気覚ましに「ピンピンピンピン……」と奇声を上げながら身体を動かしたり……。モデルになったと思われる人物が実際にやっていたという行動は突飛で、周囲を戸惑わせることも多い。だが、並々ならぬ使命感を持って家庭裁判所設立や戦争孤児救済に奔走する姿は寅子にも大きな影響を与えてきた。

 自身が死刑判決を下した死刑囚が実際に処刑される場面を見てから、凶悪事件を担当しなくなった過去を持つ多岐川。そのことに後ろめたさを感じる中、戦後満州から引き揚げてきた際に孤児たちを見て、自身の生涯をかけて子供たちを幸せにすると誓った。そんな多岐川の子供たちに向ける、とろけるような優しい笑顔が印象的だ。

 ただ彼の愛は子供たちだけではなく、全方位に向けられている。 寅子の行き過ぎた正義に小橋(名村辰)がチクリと釘を刺した時は、間に立って「自分の身だけで収まらん善意は身内がしんどいだけ。ただ、理想のためにもがく人間に、やいのやいの口だけ出すのもいささか軽率だと俺は思う」とフラットな視点から見解を述べ、小橋がみんなから好かれている寅子が羨ましいと零した時はとびっきりのハグで包み込んだ。闇市の食べものを拒否し、栄養失調で亡くなった花岡(岩田剛典)に怒りをあらわにしていたのも、法律が人を縛るものではあってはならないという思いがあったからで、やはりその根底には愛がある。

 モデルになったと思われる人物のユーモア精神にリスペクトを払って、遊び心を効かせつつ、人情味あふれる芝居で私たちの心を打ってきた滝藤。がんを患った晩年の多岐川を表現する老いの演技も素晴らしかった。最高裁長官に就任した桂場の祝賀会に参加した多岐川は一瞬元気そうに見えるが、串団子を重そうに持ち上げる仕草からもう体力が残っていないことが伝わってくる。桂場にも「この国を、司法を頼むぞ」と激励を飛ばすが、その声に力はない。しかし、桂場を見据える眼光には、未だ火力の衰えぬ燃えるような愛と情熱が滲んでいた。

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