『ベイマックス』にみなぎる“ヒーロー作品”としての熱い精神 感動的なヒロとタダシの関係

『ベイマックス』のヒーロー作品としての精神

 白くてまんまるな形で、思わず抱きつきたくなるような姿が愛らしいケア・ロボット、ベイマックス。とぼけたリアクションも憎めない、ディズニーの大人気キャラクターだ。

 そんなベイマックスが活躍する2014年公開の映画『ベイマックス』は、“癒し系”のおとぼけロボットと、少年の物語であることから、ともすれば『ドラえもん』のような内容を連想させるかもしれない。だが、この作品の原題は、『Big Hero 6(ビッグ・ヒーロー・シックス)』。じつは「マーベル・コミック」のヒーロー作品を下敷きにしたものだった。

 ここでは、本作『ベイマックス』の内容と背景を振り返りながら、本作がヒーロー作品らしくない魅力を新たに獲得していった理由と、それでも紛れもないヒーロー作品の王道をいくものに仕上がっている理由を解説していきたい。

 考えてみれば2014年当時、マーベル・コミック原作ヒーローのディズニーアニメという企画は、日本においてはやや集客が難しいところがあったかもしれない。その意味において、『ドラえもん』という、藤子・F・不二雄原作のTVアニメが国民的な存在として知られ、長年の映画シリーズの実績もある状況では、やはりヒーロー作品として売り出すよりも、『ドラえもん』同様にロボットの名前をそのまま使った、『ベイマックス』というタイトルで提出した方が人気を集められると考えたのかもしれない。

 しかし、あくまで本作で活躍するのは、ベイマックスと少年ヒロを含めた、6人のヒーローチームである。本作は、そのことを念頭においていれば、内容に違和感をおぼえることはないだろう。

 本作が企画されたのは、2009年にディズニーによる「マーベル・エンターテインメント」の買収が契機となっている。買収の理由は、第一にマーベル・コミックのヒーローを題材とした実写映画の製作、配給を念頭にしたものだが、ディズニー得意のアニメーションの方でも、今後を見据え、ヒーロー映画を一つ作りたかったという思惑も理解できる。

 監督として白羽の矢が立ったのは、ディズニーアニメを主にストーリーの側から支え、『くまのプーさん』(2011年)を手がけている、ドン・ホール監督。彼はマーベル・コミック作品のリストを読んで作品化できそうなものを探しているうち、あまり有名ではない『Big Hero 6』と出会ったのだという。

 『Big Hero 6』は、原作コミックでは日本のヒーローたちの活躍が描かれる。そのメンバーには当初、ベイマックスとヒロ以外に、日本の『X-MEN』キャラクター、サンファイアとシルバー・サムライが加入していた。とはいえ当時、『X-MEN』シリーズの映画化権は21世紀FOXが所有していたことから、これらのキャラクターは、本作では登場させない判断がとられている。何より驚くのは、原作のベイマックスは、イカつい姿をしたガードロボットという設定があることだ。

 つまりドン・ホール監督はじめアニメーションのスタッフたちは、原作を大幅に改変し、さまざまなアイデアを加えることで作品を創造し直しているのである。かくしてベイマックスは、ヒーローとしての素養を持ちながらも、基本的には愛らしいケア・ロボットというキャラクターとなったのだ。

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