『海のはじまり』生方美久脚本ならではの優しい連鎖 “終わりのない海”が見つめるもの

『海のはじまり』生方美久脚本の優しい連鎖

 第1話冒頭において、『海のはじまり』というタイトルは、波打ち際を歩く母・水季(古川琴音)と娘・海(泉谷星奈)とちょうど並行になるように伸びたかのような水平線に沿って浮かんでいた。

『海のはじまり』は永遠の恋の物語

 くっきりと浮かんだ柔らかで、真っ直ぐな線に、どことなく、海の髪を思い浮かべる。『海のはじまり』(フジテレビ系)には「髪」に纏わるエピソードがよく登場する。例えば、海の髪の毛を丁寧に梳かし、結ってあげる、彼女を愛する大人たち。水季と弥生(有村架純)、津野(池松壮亮)と夏(目黒蓮)、朱音(大竹しのぶ)は、誰もが海をこの上なく愛しているにも関わらず、愛ゆえにそれぞれの屈託を抱えていて完全には相容れない。

 また、水季の場合、亡くなってしまったがために、過去の記憶として海の髪に宿ることしかできない。そんな彼ら彼女たちは、海の髪を通してのみ繋がることができる。また、三つ編みにするか、編み込みにするか、ボンボンのついたゴムで一つ結びにするかという違いにも、各々の性格の違いや状況の違いが現れる。

 第6話において、夏が一生懸命結った海の三つ編みをほどいて、自分の家に残されていた「ボンボンのついたゴム」で一つ結びに変えた津野の中にはきっと「水季と海が2人で暮らしていた頃の海」がいて、その裏には、第5話冒頭で描かれたように「時間ないから、ボンボンつけるから許して」とバタバタと支度する水季の朝の光景があったのだろう。そう考えると、彼の行動は、彼の世界にいた海が「水季がいなくなってから現れた人たち」に変えられていくことへの小さな抵抗のように見える。『海のはじまり』は、親と子の愛の物語であるとともに、今はもういない人の面影を追う人々による、永遠の恋の物語だと思う。そしてその視線の先には「海」がいる。

日常に侵食してくるようなリアルさを伴う生方美久の台詞

 『海のはじまり』は、『silent』(フジテレビ系)、『いちばんすきな花』(フジテレビ系)の生方美久による完全オリジナル脚本である。存在を知らされていなかった娘・海と出会った主人公・夏と海が、ゆっくりと親子になっていく姿を描くとともに、それぞれの事情を抱えつつ、互いを思いやって生きる家族の物語が、丁寧に紐解かれていく。

 「考えすぎちゃって、言葉になるのが人より遅いだけ」「自分より他人のこと考えちゃうだけ」と言われる人物を主人公に置くことで、分かりやすく大きい声で話す人の声にかき消されてしまいがちな誰かの声にドラマを通して寄り添おうとすることは、『いちばんすきな花』で「2人組を作るのが苦手だった4人」を中心に置いたことと共通する。また、美容院に行く時間とお金の余裕がなく、行ったとて、罪悪感に駆られると言う水季や「離婚して再婚するまでの間」のゆき子(西田尚美)と、「美容院でカラーを頼み、オプションのトリートメントを躊躇なく加えることができる」弥生(有村架純)との対比や、「食卓のコロッケ」の対比など、ドラマを越えてふと日常に侵食してくるようなリアルさを伴う数々の台詞にハッとさせられる。

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