『【推しの子】』メルト回は想像を超えた神作画に 見事だった“手”の演出を読み解く

『【推しの子】』メルト回の手の演出を解説

 そんなメルトの最大の見せ場は、1分間の感情演技だ。アニメオリジナルの抽象的な心象表現が効果的に使われていたこのシーンでは、「情けなく、みっともなく、悔しい」今の自分と重ね合わせた心情が、痛いほどに伝わってくる。メルトがこれまでの自分の人生全てを詰め込んだ感情演技に、SNSでも「メルトくん」がトレンドに上がった。

 メルトは天才ではない。だからこそ、アクアやルビーが先天的に持つ才能を表す星を、必死に掴もうとしてもなかなか届かない。それでも、星の光に包まれ、彼らが見る“景色”を知ることができた。それはもちろん、彼自身が血の滲むような努力で掴み取ったものだ。拳から滴り落ちる血からキザミが生まれる、というアニメオリジナルの演出も素晴らしい。前田誠二の演じ分けもあいまって、『きょうあま』での「ヒトリニサセネーヨ!」からは想像もつかないメルトの「成長」を象徴的に表現していた。

 さらに劇伴については、Bパートのメルトの決め技付近からはフィルムスコアリングの手法で作曲されているという。こうして、音楽と映像が見事に調和した“メルト回”が出来上がったわけだ。(※)

 さらには「手」の対比も印象的だ。『きょうあま』での自分の演技の酷さに直面し、そっと画面をおおうメルトの手。傷ひとつない綺麗な手を見ながら、自分の不甲斐なさと、誰かの大切な作品を台無しにしてしまった後悔に彼はボロボロと泣くのである。だからこそ、誰よりも熱心に、手にマメができるほど懸命に努力する彼の姿は、視聴者の心を打つ。かつて綺麗な自分の手を見ながら泣いたメルトが、今度はボロボロになった自分の手を見ながら誇らしく笑う。その変化は、メルトの俳優としての、そして一人の人間としての成長を雄弁に物語っていた。

 いよいよ次週は、メルトからバトンを託された役者たちの熱い戦いが幕を開ける。次に「成長」を見せるキャラがどう舞台で「化けて」描かれるのか、いち観客として楽しみだ。

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