『クレヨンしんちゃん』3DCG化は何をもたらしたのか “デフォルメ”の魅力を見事に立体化

 シリーズ初の3DCG作品として2023年に公開された『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』がテレビ朝日にて、8月4日に地上波初放送される。

 本作は、宇宙から飛来した謎の光線に当たったしんのすけが超能力を持つことになる物語だ。しんのすけと時を同じくして、暗黒の力の光線を浴びた青年、非理谷充(ひりやみつる)が社会にパニックを引き起こし、しんのすけと野原一家がそれを止めるべく奮闘する様が描かれる

 2Dの手描きで生まれた作品を3DCGで表現する試みは、これまでにもなされてきたが、『クレヨンしんちゃん』は3DCGで表現するのが最も困難な作品のひとつと目されていただろう。その「しんちゃん」の3DCG化に挑むことで何が生まれたのか、どんな変化をもたらしたのかについて振り返ってみたい。

『クレヨンしんちゃん』の2D的魅力

 まず、前提として『クレヨンしんちゃん』という作品は、2Dの手描きの魅力に溢れた作品である。主人公のしんのすけの、頭部が極端に大きくて、身体が小さい外見のかわいらしさは、平面的な表現だからこそ生まれるデザインといってもいい。しんのすけの母、みさえの変わった髪型も平面的な処理ゆえに違和感なく見られる。

 動かし方にしても、例えば「ケツだけ星人」みたいな動きは、最初から3DCGのキャラクターなら思いつくようなものではないだろう。極端に嘘をついても映像として成立する次元空間であればこその発想であって、『クレヨンしんちゃん』の世界は全編にわたってそういう表現に溢れている。

 他にも、しんのすけ独特の「にやり」と口の開いた状態を、顔の斜め後ろから描くのも、かなり大胆に嘘をついた描き方である。実際の人間はあの角度からあんなに口が開いて見えることはない。こういう極端なデフォルメに支えられたのが『クレヨンしんちゃん』の魅力だ。

 かなり誇張の入ったウソの世界で、シンプルなデザインに支えられた作品であり、3DCGはむしろそういうものを表現するのは得意ではない。ディズニーの手描き時代のキャラクターと近年のCGベースのキャラクターを比較すればよくわかる。CG時代になると、立体の造形物としての破綻させないデザインを指向するようになっていて、2D時代よりも形状変化やデフォルメの度合いは大きくない。だからこそ、それに挑むことが3DCGの表現の幅を拡げることにもつながるという想いもあって、本作が生まれたのだろう。

3Dでも2Dの良さを引き継ぐ苦労

 『クレヨンしんちゃん』を3DCGで表現するのは、言うなれば、昔のディズニーキャラクターの伸縮する身体をそのままCGでやろうとするような試みだろう。3DCGは立体表現が前提ゆえにデフォルメしにくい。その代わり、きちんと動くモデルができれば縦横無尽に動かすことができるし、カメラワークの自由度は上がる。

 制作陣もこれが相当の無理難題であることはわかっていたようだ、シンエイ動画のプロデューサー吉田有希氏は、「おそらく『しんちゃん』も「絶対に3Dにしない方がいい」と思われていた作品」(※1)と語っているが、だからこそ挑むことで、表現の幅が拡がると考えていたようだ。

 実際に、3D化に際して、キャラクターデザインは過剰に立体感を感じさせない作りを志向している。原作の丸みを帯びた平面的な雰囲気を損なわないために、口などの顔のパーツも立体感なく、まるで上から貼りつけたような印象にしている。

 通常、3DCGのキャラクターの口には、奥行きがあるものだ。本作のCG制作は白組が担っているが、同社が作った『STAND BY ME ドラえもん』と比べると顔のパーツのあり方がかなり異なることに気がつく。

映画『STAND BY ME ドラえもん』予告編

 顔のパーツも胴体も、できるだけいつもの2Dの感覚で観られるように設計されていると思われる。これを3Dで作るのは非常に難しいが、3Dでウソをつき、2D時代の表現を3Dでも可能にするという点において、この試みは貴重なものだ。

 この試みは、3Dだからといって2Dにあった良さを諦めることなく表現できるということだ。それは日本アニメの磨いてきた特徴的な表現を今後も活用可能であるということでもあるのだ。

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