宮藤官九郎と山田太一に通じる「現代を見つめ続ける覚悟」 『終りに見た街』を継ぐ意義とは

宮藤官九郎が『終りに見た街』を継ぐ意義

 その一方で、山田も宮藤もテレビドラマの“王道”から少し外れたポジションを取った作家でもある。ある種、“カウンター”の立場だからこそ描けるものがあると成馬氏は語る。

「必ずしも現代の最先端の場所にいなくてもよくなったことで、自由度を増しているのかもしれないです。『不適切にもほどがある!』(TBS系)や『新宿野戦病院』は、どちらかというと世の中の流れに乗れずに、ポリコレやコンプラに悩んでる人たちの側に立って書かれたドラマです。“最先端の価値観にアップデートし続けなければいけない”という考え方もありますが、そこから外れてもいいと思った時、もっといろんなことができるようになる感覚がある。今の宮藤さん、現代の価値観に対して“笑い”を通して距離をとることで、クラシカルで普遍的なものを模索してのではないでしょうか。だからこそ“価値観のズレ”を劇中で描く機会が増えているのだと思います。『終りに見た街』も過去にタイムスリップしますし、こうした傾向は、巨匠になってドラマの中心から外れて行った山田さんとも似ているんです。でも個人的にはそういう人がいていい気がします。常に価値観をジャッジされている感覚のある現在で、カウンターの立場になったからこそできることがたくさんあるはずです」

 主演を務める大泉は意外にも本作が宮藤脚本作品に初出演。脚本がコメディに寄るかどうかはまだ判明していないが、どちらにしても相性がいいタッグであると成馬氏は予想する。

「普段組まない人と組む機会が増えているのが近年の宮藤さんの特徴です。これまでは大人計画のメンバーや長瀬智也さんをはじめとした“定番”のキャストのイメージがすごく強かった。それはTBSドラマが作った流れだと思うのですが、これまでとは違う座組みの可能性をいろいろ試している感じがします。大泉さんとは、山田洋次さんの映画『こんにちは、母さん』で俳優として共演していますし、実際に相性はいいと思います。ただし、もうすでにある脚本を改めて書くとなったとき、何を足して何を引くかが気になります。コメディに寄せてしまうのか、山田さんの味を活かした割とシンプルなものにするかで大きく変わるからです。大泉さんも幅がある俳優で、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合)のシリアスな演技も素晴らしかったですし、どちらに寄せるかで全く変わります。観てみないとわからないですが、どうなるかわからないことも含めて楽しみです」

 『終りに見た街』は日本を代表する脚本家・宮藤官九郎の新たな真価が見られる作品になりそうだ。

■放送情報
『終りに見た街』
テレビ朝日系にて、9月放送
出演:大泉洋
原作:山田太一『終りに見た街』(小学館文庫刊)
脚本:宮藤官九郎
演出:片山修
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、後藤達哉(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)、和田昂士(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作:テレビ朝日
©︎テレビ朝日

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