宮藤官九郎と山田太一に通じる「現代を見つめ続ける覚悟」 『終りに見た街』を継ぐ意義とは

宮藤官九郎が『終りに見た街』を継ぐ意義

 宮藤官九郎が脚本を手がけ、大泉洋が主演を務めるテレビ朝日開局65周年記念ドラマプレミアム『終りに見た街』が9月に放送される。原作は山田太一の小説で、2度自らの手でドラマ化しており、今回が約20年ぶり3度目のドラマ化となる。

山田太一『終りに見た街』20年ぶり3度目のドラマ化 大泉洋が宮藤官九郎脚本作品に初出演

大泉洋が主演を務め、宮藤官九郎が脚本を手がけた、テレビ朝日開局65周年記念ドラマプレミアム『終りに見た街』が9月に放送されること…

 戦争体験者の一人として厳しい体験を次世代に伝えることをテーマに山田が執筆した『終りに見た街』を、なぜいま宮藤がドラマ化するのか。宮藤の作品を観続けてきた成馬零一氏は、「戦争に対しての危機意識ではないか」と指摘する。

「宮藤さんは2023年から“量産体制”といえる新しいモードに入っています。その1つが、山田太一さんの作品をリメイクすること。『終りに見た街』は“知る人ぞ知る名作”の扱いであり、さらに戦争の話でもあるので、宮藤さんがドラマ化する作品として本作が選ばれたことは驚きでした。その一方で、納得する部分もあります。現在放送されている『新宿野戦病院』(フジテレビ系)は、小池栄子さん演じるヨウコ・ニシ・フリーマンが軍医であるなど、背景には明確に戦争の影が落ちています。劇中でそれがシチュエーションとして用いられているというよりは、ウクライナ戦争やパレスチナの問題などを経て、宮藤さんの中にある戦争への距離感が変化した証左であるように感じました。戦争が“過去にあった悲劇”というより、何年後かに日本も似たような状況に巻き込まれるのではないか、という危機意識を持っているのではと思います。宮藤さんだけではなく、アニメ映画『窓ぎわのトットちゃん』や『この世界の片隅に』も第2次世界大戦前後の話を描いていますし、洋画では『関心領域』や『オッペンハイマー』が公開され、全世界的にもう一度、戦争と現在の距離感を検証したいところがあるのだと思います。山田さんが描いた作品にも明確に戦争の影がありました。さまざまな作品を経て、宮藤さんが『終りに見た街』にいま挑むのは必然だったとも言えるかもしれません」

 成馬氏は、山田太一と宮藤官九郎の共通点は、「現代を見つめ続ける覚悟」と語る。

「山田さんはテレビドラマのレジェンド的存在です。山田さんをはじめ、向田邦子さん、倉本聰さんといった脚本家の功績によって、テレビドラマが“作家”で語られるようになりました。『岸辺のアルバム』(TBS系)、『想い出づくり。』(TBS系)、『ふぞろいの林檎たち』(TBS系)などが評価されると同時に、シナリオ本が出版されるようになりました、現在も第一線で活躍している岡田惠和さんや野島伸司さん、三谷幸喜さんなどは山田さんの作品を通して脚本を学んだ方たちで、山田さんの脚本が読み継がれていくことで、テレビドラマの伝統は作られてきました。また、山田さんは“戦後の民主主義と家族”を主題にした作品を多く手がけており、その時代ごとの、普通の人の中にある燻っている感情や闇を、日常を舞台に書き続けてきた方です。そして宮藤さんも『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)などの作品で“現代の家族”の話をずっと書いており、共通点が多く見られます。宮藤さんはコメディ色が強いため、一見すると直接的な影響はあまりないように見えます。ただ、根底にあるものはとても近い。山田さんは生前、宮藤さんを高く評価されていました。テレビドラマの脚本家には作家としての役割が求められます。面白い作品を書くだけではなく、その時代にどういうテーマを打ち出すか、どういうメッセージを書くかなど、なぜ今それを書くのかが常に問われています。宮藤さんはそうしたものから、全く逃げることなく、震災が起きたら震災をしっかりと書き、オリンピックの前には大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック 噺〜』(NHK総合)を書いています。そういう立ち位置であることを、覚悟を持ってやっているのだと思います」

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