『キングダム 大将軍の帰還』に感じたシリーズ屈指の熱量 観客を圧倒する大沢たかおの熱演

『キングダム 大将軍の帰還』の熱量の高さ

 中国史の戦乱時代の一つ、春秋戦国の末期を題材に、中華を統一する夢を持った6代目秦王と、その武将、軍師、兵士たちの活躍を描いていく人気連載漫画『キングダム』。この実写化のハードルが高い内容を、大規模な撮影による迫力ある映像と豪華俳優陣を結集して実写化した同名映画シリーズもまた、いままでに累計動員数1000万人を超えるという大ヒットを成し遂げている。

 そんな映画『キングダム』シリーズの集大成となる一作『キングダム 大将軍の帰還』が公開され、公開4日間で興収22億円を突破するという好成績を達成した。しかし真に驚かされたのは、その内容だ。これまでの3作品も、日本映画として破格のスケールで古代の戦争と陰謀のドラマを描いて話題を呼んでいたが、この一作に限り、もはや別物と言ってよいほど、シリーズ中で群を抜いた熱量を感じさせるものになっているのである。

 もともと、本作『キングダム 大将軍の帰還』がストーリー上、これまでの最大の山場を表現することになるというのは、原作を知る観客は予想できていたはずだ。しかし本作は、その予想すら上回るものになったと感じた観客が多かったのではないか。ここでは、本作が観客をここまで惹きつけ、心を動かす表現に到達した理由とは何だったのかを、できる限り深いところまで考えていきたい。

 前作『キングダム 運命の炎』(2023年)と本作は、どちらも秦と趙の大軍同士が激突する「馬陽の戦い」を描いているように、二つの作品は実質的に、前編、後編の役割を担っている。また前作では戦とともに、吉沢亮演じる秦王・嬴政(えいせい)の凄絶な過去が描かれたように、本作では大沢たかお演じる、謎めいた大将軍・王騎(おうき)の過去が明かされることとなる。

 本作の物語は、吉川晃司演じる、凄まじい強さを誇る「武神」こと、趙の総大将・龐煖(ほうけん)が、秦軍の一部隊「飛信隊」と、山﨑賢人演じる隊長・信(しん)の前に単身で現れるといった、前作のラストシーン直後から始まる。信と、清野菜名演じる飛信隊・副将の羌瘣(きょうかい)は龐煖に二人で立ち向かうことになるが、圧倒的な実力差により一蹴され、隊ともども退却を余儀なくされてしまう。

 趙軍の追撃に遭い、多くの犠牲を出すことになった飛信隊ではあったが、生き残った者たちは総大将・王騎のもとに復帰し、信はふたたび厳しい戦場での戦いに身を投じることとなる。そして、龐煖との一騎討ちで死闘を繰り広げる王騎の勇姿と、思いがけない展開によって最大の危機に陥る姿を目の当たりにすることになる。

 本作で最も印象深いのは、何といっても王騎を演じる大沢たかおの熱演である。いつもは悠然とした態度で余裕の笑顔を崩さない王騎だが、決戦に際しては因縁ある龐煖への怒りの感情が思わず吹き上がってしまう。そして、大将軍としての威厳を見せつけるとともに、死地に追いつめられ鬼神のような奮闘を見せるといった、天下の大将軍の戦場での両極の姿が表現されるのである。その数々は、対する龐煖のみならず、われわれ観客をも圧倒する。

 もちろん、原作のストーリー展開に準拠している本作において、物語上でも王騎というキャラクターの描き方としても一つの頂点を迎える内容のなかで、王騎の役が輝くというのは当然だといえるかもしれない。だが大沢の演技の迫力は、そんな期待すらはるかに超えたものだと感じられる。「全身全霊の演技」という表現があるが、それはまさに王騎を演じる大沢たかおのためにあったのだとさえ思えるほどだ。

 筆者が初めて大沢たかおの演技で驚かされたのが、スティーヴン・セガール主演のアクション映画『イントゥ・ザ・サン』(2005年)だった。日本の裏社会が舞台の作品だが、いわゆる日本文化の奇妙さを誇張したタイプの内容で、セガール主演映画のなかであまり顧みられることのない一作だが、国際的な映画で大きな役を得た大沢の演技と熱量は鬼気迫るものがあり、出演シーンの一つひとつに心を動かされずにはいられない。演技という行為に、どれだけ熱意や狂気を込められるか。その意志は、観客にちゃんと伝わるのだということを思い知らされたのである。

 そんな大沢が、エキセントリックかつ圧倒的なカリスマ性を持つ王騎という、またとない役柄を大作で演じるのだから、常識の枠内に収まるようなものになるはずがない。そのことをしっかりと意識しながら本作に臨んでも、さらに驚かされてしまうのである。あらためて、大沢たかおの演技の凄さ、俳優としての志の高さに目を見張らざるを得ない。

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