『キングダム2』清野菜名は“宿命を背負う女戦士”が最も似合う俳優だ 武道家が剣術を解説

『キングダム2』の清野菜名を武道家が解説

 今作での動きを見ればわかるように、清野菜名は本来武闘派俳優である。近年は月島雫の10年後を演じたりもしているが(『耳をすませば』)、元々は「アクションで輝く女優」として、世に出てきたのだ。正直に申し上げると、初期の作品のすべてが彼女の魅力を活かし切れていたとは言えない。玉石混交のカオスである。だが、その中で1作、ピカピカの「玉」がある。押井守監督作『東京無国籍少女』(2015年)がそれだ。

 彼女が演じるのは、記憶をなくした元・女兵士。今は高校美術部に在籍しているのだが、いじめに遭っている。いじめっ子たちにトイレに連れ込まれた時、かたわらのデッキブラシを手に取る。先端のブラシ部分を踏み折り、低い棒術の構えでいじめっ子に棒を突きつける。

 デッキブラシのブラシ部分自体は、打ちつければ武器にはなるだろう。だが、重心が先端に偏っているため、棒術を繰り出すには不都合だ。一瞬の判断で、その場にある物を使い勝手の良い武器に作り変える。記憶をなくしてなお、優秀な兵士であったことが伺えるシーンだ。

清野菜名、『キングダム2』で本格アクションに原点回帰 結婚&第一子で広がる演技の幅

2019年邦画実写作品で興行収入1位を獲得した『キングダム』の続編、映画『キングダム2 遥かなる大地へ』が7月に公開される。その…

 このシーンを観て、筆者は1本の古い名作を思い出した。『仁義なき戦い 広島死闘篇』(1973年)である。作中、千葉真一が、食堂で乱闘になった時にかたわらの竹竿を手に取る。その竹竿で戦うのかと思ったら、出刃包丁で斜めに叩き割り、即席の竹槍を作り出す。無銭飲食した北大路欣也の喉元に突きつけ、制圧する(ちなみに千葉真一の方が悪役)。このシーンが震えるほどカッコよく、筆者は何度マネしたかわからない。

 この時の千葉真一と、デッキブラシ棒術の清野菜名が、オーバーラップして見えたのだ。一見可憐な彼女だが、千葉真一亡き後の日本アクションシーンを支える1人となってほしい。

 再び『東京無国籍少女』の話に戻る。この作品の終盤、校舎で繰り広げられるロシア兵との白兵戦が、驚異的にリアルだ。洗練された銃剣の扱い、胴タックルから小内刈りによるテイクダウン、命中率の高い接近戦でのコンパクトな後ろ蹴り、戦闘不能化を狙ったナイフによる大腿動脈への斬撃など。映像映えのためだけの無駄に派手な攻撃など一瞬たりともない、嫌になるほどリアルな軍隊格闘術だ。それでいて、ただの地味で殺伐とした絵面というわけではない。一切の無駄を排除した機能美に溢れている。

 「戦うことを宿命づけられた悲しき女戦士」が最も似合う俳優・清野菜名演じる羌瘣の活躍は、来週7月12日に放送される『キングダム 運命の炎』(2023年)でも堪能することができる。同じく7月12日に公開される『キングダム 大将軍の帰還』においても、美しく華麗に暴れてくれるはずだ。

■放送情報
『キングダム2 遥かなる大地へ』
日本テレビ系にて、7月5日(金)21:00~23:09放送 ※放送枠15分拡大
原作:原泰久『キングダム』(集英社『週刊ヤングジャンプ』連載)
監督:佐藤信介
脚本:黒岩勉、原泰久
音楽:やまだ豊
主題歌:Mr.Children「生きろ」
出演:山﨑賢人、吉沢亮、橋本環奈、清野菜名、満島真之介、岡山天音、三浦貴大、濱津隆之、真壁刀義、山本千尋、豊川悦司、髙嶋政宏、要潤、加藤雅也、高橋努、渋川清彦、平山祐介、玉木宏、小澤征悦、佐藤浩市、大沢たかお
©原泰久/集英社 ©2022 映画「キングダム」製作委員会

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