『虎に翼』は朝ドラにおける戦争観を更新 作品の根幹となる“生き残ってこそ”の価値観
朝ドラでは『おひさま』でも試みられていた描き方だが、『おひさま』ほど極端でないにしても、『カーネーション』などの後続の作品の戦時下の描き方は2010年代以前の朝ドラと比べると現代の視点で批判する描写は、だいぶ抑制気味になっていた。その中でも『虎に翼』の戦時下の描き方は徹底されており、朝ドラにおける戦争観は完全に更新されたと感じた。おそらく、戦時中に何もできなかった、何も考えることができなかったという後悔が、寅子の行動を後押しする展開が後に待っているのだろうと想像する。そして、開始2カ月目で朝ドラの山場となる戦争を一気に描ききった一方で、幼少期も出産シーンも玉音放送も描かないという、大胆な構成には驚かされた。
6月に入ると舞台は戦後となり、寅子は再び法律の世界に戻ってきた。
消息不明だった仲間たちが再登場し、新たな登場人物も増え、再び賑やかになってきた本作だが、目が離せないのが家庭裁判所設立準備室の上司・多岐川幸四郎(滝藤賢一)の動向だ。
判事という立場ゆえに、闇米に手をつけずに栄養失調で亡くなった花岡悟(岩田剛典)を「法律を守って餓死だなんて、そんなくだらん死に方があるか。大バカタレ野郎だね」と言って、多岐川は否定する。その時、彼は職場でスルメを食べており、理念に殉じた花岡とは正反対である。
多岐川に反発を覚える寅子だったが、彼女が法曹界に復帰するきっかけが、闇市で食べた焼き鳥を包んでいた新聞に書かれた日本國憲法の記事を読んだからだったことを考えると、「食事あってこその理念」「人間、生き残ってこそだ」という多岐川の考えは、作品の根幹となる重要な価値観なのかもしれない。多岐川との出会いが寅子にどのような変化をもたらすのか楽しみだ。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK