『デデデデ』に凝縮された震災以降のサブカルチャーと表象 2024年に示した“絶対”の答え

 原作漫画の連載が終了したのは、依然としてコロナ禍にあった2022年の2月のことだった。その数カ月後に、映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(2022年)が日本公開されたのは、なかなか興味深いめぐりあわせではあるけれど、原作漫画が選んだのは、ある意味マルチバース的なエンディングであり、それが物議をかもしていたことは薄っすらと覚えている。漫画の中で散々予告されていたように、この世界の人類は、どうやら滅亡したようなのだ。それから2年が経ち、コロナ禍の記憶が早くもおぼろげになりつつある現在、今回の映画版のスタッフたち(恐らく、原作者である浅野いにお自身も含む)が新たに選び取った結末とは、果たしてどんなものなのか。その詳細は、無論ここには書かないけれど、先に挙げた「もし僕のせいで、世界が滅んだらどうする?」というおんたんの問い掛けに対して、かどでは明るい声でこう応えるのだった。「まあ、いいんじゃない? おんたんが世界中の人を敵に回しても、私だけは味方になってあげますよ。だって、おんたんは絶対ですから」。

 原作にも登場するそのやりとりを、よりいっそうハイライトさせること。2024年に公開されるアニメ映画版『デデデデ』の中で彼らが選んだのは、そういうことなのだろう。ちなみに、2015年にでんぱ組.incが発表したシングル曲「あした地球がこなごなになっても」(作詞は浅野いにおが担当している)が挿入歌として使用されていることも、実は本作のポイントのひとつなのだろう。というか、これまで具体名を挙げてきた作品のほとんどは、この10年という長いような短いような年月の中で作られてきたものなのだ。東日本大震災以降、激しく揺れ動き続けてきた「日本」――2012年から2020年まで続いた第二次安倍内閣が、その10年に多かれ少なかれ影響を与えてきたことも、今とってなっては深く考えさせられてしまうのだけど(その彼が2022年の7月に、凶弾に倒れたことも含めて)、それだけではなく、映画やアニメ、音楽などの「サブカルチャー」が、この10年のあいだに描き出してきた数々の「表象」が、この映画の中には至極凝縮した形で盛り込まれているのだ。ある意味、集大成と言ってもいいぐらいの勢いで。けれども、本作のスタッフたちが選び取ったのは、それらのものを「相対」させることではなかった。むしろ、そこから「絶対」を浮かび上がらせてみせること。そう、「相対」の対義語は、まさしく「絶対」なのだった。おんたんの兄・ひろし(諏訪部順一)の「最後まで希望を失わないためには、どうしたらいいと思う?」という問い掛けに対するひとつの回答でもある「絶対」。そこにはまた、賛否両論があるのかもしれないけれど、2024年に指し示す回答として、個人的には強く心を揺さぶられるものがあった。

■公開情報
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』
後章:全国公開中
声の出演:幾田りら、あの、種﨑敦美、島袋美由利、大木咲絵子、和氣あず未、白石涼子、入野自由、内山昂輝、坂泰斗、諏訪部順一、津田健次郎、竹中直人
原作:浅野いにお『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(小学館『ビッグスピリッツコミックス』刊)
監督:黒川智之
シリーズ構成・脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン・総作画監督:伊東伸高
美術監督:西村美香
音楽:梅林太郎
アニメーション制作:Production +h.
製作:DeDeDeDe Committee
配給:ギャガ
©浅野いにお/小学館/DeDeDeDe Committee
公式サイト:dededede.jp
公式X(旧Twitter):@DEDEDEDEanime

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