『ヒーローではないけれど』チャン・ギヨンが過ごした“幸せな時間” 予知夢は覆せるのか?
『ヒーローではないけれど』というタイトルにある通り、本作での超能力の使い方は、ヒロイックなものではなく、メタファーであることがわかる。トラウマを抱えてうつ病となったギジュは、前に進めず「幸せだった過去の時間」に何度も何度もタイムトラベルするが、やり直せない過去を悔やんで自責や他責に駆られたり、よかった頃の思い出に浸る行為を繰り返すことは、誰でも少なからず体験したことがあるのではないだろうか。失恋をして、「あの時こうしていたら、いや、いっそ出会わなければよかった」と思ったことのある人もいるだろう。古今東西、失恋ソングが人気なのも、感情を共有して痛みから立ち直っていくための立派なツールだからだ。
イナが人の目を見て心を読むことで自分の心を閉じ、人を怖がることも、「コミュ障」という言葉があるように、人間同士のコミュニケーションにストレスを感じる人が多いことの表れだ。「人間の悩みは全て対人関係の悩みである」という心理学者アルフレッド・アドラーの言葉のように、人は家族、友達、上司に部下、恋人と、人生に現れる多くの人たちとコミュニケーションを取りながら、時にぶつかり合い、譲り合い、労わり合い、避けたりくっついたりしながらも、“自他が心地良く生きられる距離や方法”を学んでいく。
ギジュとイナの親子関係もそうだ。イナがこれまで一人で抱え込んできた辛い秘密をギジュが知り、ここから新たに親子関係を作っていこうという場面では、イナのこれまでの辛さと、父と娘の心が繋がった安堵に2人の目から涙が溢れた。イナを演じるパク・ソイの大きな目と涙のこぼれ落ちるタイミング、豊かな表情演技とそのかわいさに目が離せなくなる。
ギジュとイナの心が結ばれ、ダヘも交えた家族として幸せな時間を過ごすギジュたち。3人でサイクリングをしたり、プリクラを撮ったりと楽しげな中、ダヘはイナから目を隠すようにサングラスをかける。
ギジュとダヘは、雨の中ふたりでドライブに出かける。そこでダヘはギジュを過去にタイムトラベルさせるように仕向ける。過去から戻ったギジュは、2人が乗っていた車が事故に遭い、ダヘの姿がどこにもないことに愕然とする。この場面は、ギジュが車に戻った瞬間、視聴者も驚愕したことだろう。ギジュが今度こそ立ち直れなくなるのではないかとハラハラとなりゆきを見守る中、イナが活躍を見せる。ギジュとダヘが、互いを想い合う強い気持ちに涙腺を刺激された視聴者も多いだろう。
物語はクライマックス目前を迎え、ギジュとイナ、そしてマヌルの家族愛に感情を揺さぶられた。さらに、強く愛し合うギジュとダヘが、互いがいない世界では生きられないと感情をぶつけ合う場面に泣かされる展開となった。超能力一家と詐欺師一家が出会ったことで、双方の家族に大きな変化が起きている。笑いあり、涙あり、ミステリーありの本作がどんな着地をするのか、双方の家族全員のハッピーな笑顔溢れる大団円を願っている。
■配信情報
『ヒーローではないけれど』
Netflixにて配信中
出演:チャン・ギヨン、チョン・ウヒ
(写真はJTBC公式サイトより)