『古畑任三郎』はなぜ今もまったく色褪せないのか リメイク困難な完璧な少数精鋭の会話劇

 5月24日からフジテレビのハッピアワー枠(関東ローカル)で再放送されている『古畑任三郎』が話題になっている。

 三谷幸喜が脚本を担当している本作は、1話完結のミステリードラマで、1994年に第1シーズンとなる『警部補・古畑任三郎』(フジテレビ系)が放送されて以降、第3シーズンまで連続ドラマが作られ、『古畑任三郎 VS SMAP』といったSPドラマも多数作られてきた人気シリーズだ。

 田村正和が演じる刑事・古畑任三郎の思わずモノマネしたくなる個性的な立ち居振る舞いが魅力的な本作は、犯人役の俳優も毎回豪華で、このキャスティングがテレビドラマで実現できたことに改めて驚かされる。

 海外ドラマ『刑事コロンボ』に着想を得た本作は、初めに犯人が提示される「倒叙」型のミステリードラマとなっている。一般的なミステリーが、事件が起こった後で犯人の正体とトリックの謎を探偵が探っていく「叙述」型で進むのに対し、『古畑任三郎』は犯人が殺人を犯す場面から始まり、探偵役となる古畑任三郎が登場する。その後、古畑が容疑者にしつこく質問を繰り返し相手を翻弄することで事件の謎を解き明かしていく姿が描かれる。

 テレビドラマは良くも悪くも制作された時代の空気が色濃く反映されるため、大ヒットした作品でも時代がズレるとすぐに古びて色褪せてしまう。他ジャンルの映像作品と比べてドラマの過去作が次世代に継承されないのはその時代性ゆえだが、『古畑任三郎』は再放送の度に注目され、新規ファンを獲得している。

 『鎌倉殿の13人』(NHK総合)などの大河ドラマにも言えることだが、三谷幸喜が脚本を執筆したドラマは古びることがなく、放送終了後も熱狂的なファンを獲得している。

 今後もテレビドラマの古典として残っていくことは間違いないだろうが、三谷作品の中でも『古畑任三郎』は別格で、このドラマでしか味わうことができない独自の魅力が存在する。

 『古畑任三郎』を観る度に毎回驚くのは、出演俳優の少なさだ。

 メインとなる出演者は、主人公の古畑と部下の今泉慎太郎(西村雅彦/現・西村まさ彦)と犯人と被害者を演じるゲスト俳優の4人。シリーズが進むと刑事の西園寺守(石井正則)や巡査の向島音吉(小林隆)といったレギュラー出演者も増えていくのだが、テレビドラマの出演者としては少数精鋭である。

 シーンの数も少なく、別荘、劇場、ラジオ局といった限定された空間で物語は展開される。まるで一幕ものの舞台劇を観ているかのようだ。

 三谷は劇作家出身で、80年代から舞台と並行してテレビドラマの脚本を多数手がけている。脚本家として注目されるきっかけとなった深夜ドラマ『やっぱり猫が好き』(フジテレビ系)も限定された空間で少数の人物のやりとりを描いたドラマで、会話劇の面白さと細部まで計算された構成力が高く評価された。

 その後、プライムタイムで執筆した『振り返れば奴がいる』(フジテレビ系)や『王様のレストラン』(フジテレビ系)になると、テレビドラマらしい佇まいになるが、どちらも病院やレストランといった限定された空間が舞台で、どこか舞台劇をドラマで観ているようだった。

 深夜ドラマならともかく、プライムタイムの連続ドラマという大舞台で、舞台劇のテイストを打ち出すことは、強い確信がなければできないことだろう。近年の三谷作品は、実力派俳優を多数集めたグランドホテル形式の大作が増えているが、80〜90年代の三谷ドラマを観ていると、舞台が限定された少人数の物語でも面白くできるという絶大な自信が感じられる。その筆頭が『古畑任三郎』である。

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