キングズリー・ベン=アディル、ボブ・マーリー役で意識したのは「“らしさ”を体現すること」
「ごく自然な形でキャリアが進展してきたように思う」
ーー『あの夜、マイアミで』ではマルコムXを、『コーミー・ルール』ではバラク・オバマを演じるなど、実在の人物を演じることが多いですよね。
ベン=アディル:そうですね。“実在の人物を演じることに伴うプレッシャーとどう向き合うか”という点では、今回、過去の経験が活きた部分が多少あったかもしれません。イギリス人の僕がマルコムXを演じるのは、すごいプレッシャーでしたから。最初はかなり怖じ気づきましたが、「マルコムXは誰が演じようがマルコムX」と割り切って……というか、開き直ることにしました(笑)。どんな役柄であろうと、しっかり準備さえしておけば、演じきれないことはない。さっきも言ったけれど、ある程度プレッシャーがあるほうが、やる気が湧くタイプなんです(笑)。ちょっとマゾっぽいですけどね(笑)。
ーー(笑)。想像で生み出すオリジナルキャラクターを演じるのと、実在した人物を演じるのとでは、演技に何か違いは出てきますか?
ベン=アディル:特に違いはありません。実在の人物を演じる際は、その人の動きや話し方や容姿を正確に捉えなきゃいけないというのはあるけれど、役作りや演技に対するアプローチそのものは何ら変わりません。脚本を読んで、自分が演じるキャラクターが何を考え、どんな夢や願望や恐れを抱いているのか、そのキャラクターがストーリー上どんな立ち位置で、どういった役割を果たすのかを理解する。その上で、自分自身を役柄に反映させていく。そのプロセスは、いつも同じです。今回ボブ・マーリーを演じるにあたっても、単なるモノマネにならないよう、ひとりの人間として彼を理解し、それを基に自分のバージョン……僕なりのボブ・マーリー像を作り上げていきました。確かに彼は、誰もが知る伝説の存在ではあるものの、撮影中はそういうことをあまり考えませんでした。僕にとってはすでに、古くからの友人のような存在になっていたし、撮影中はことあるごとに心の中でボブと会話していましたから。「このとき、実際は何を考えていたの?」とかね(笑)。
ーー『シークレット・インベージョン』や『バービー』を含め、話題作への出演が続いていますね。演劇から俳優業をスタートして10年以上、これまでの道のりと現状も含め、自身のキャリアを振り返っていかがですか?
ベン=アディル:ものすごく恵まれていたと思います。演劇学校を卒業してから5年ほど舞台で経験を積んで、その間イギリスを代表する素晴らしい舞台俳優たちと共演し、実に多くのことを学ばせてもらいました。その後テレビドラマの仕事をもらい、さらに経験を積むという具合にトントン拍子でキャリアが進んでいき、本当にラッキーでした。特定の進路を思い描いていたわけではないけれど、そのときどきの自分に合う仕事に恵まれたという意味でも、ごく自然な形でキャリアが進展してきたように思います。例えば、もし25歳のときにボブ・マーリー役をオファーされていたとしたら、おそらくできなかった。なるべくしてなるというか、全ての物事には理由があるというか……。準備が整った時点で、相応しいチャンスがやってくるものだと僕は考えています。
ーー最後に、今回ボブ・マーリーを演じた経験を通して学んだことを教えてください。
ベン=アディル:いろいろありますが、まずは音楽の素晴らしさですね。ボブ・マーリーが、比較的短い期間にどれほど多くの名曲を生み出したか。もちろん僕も以前からファンでしたし、彼の音楽はよく聞いていたけれど、アルバム一枚一枚をじっくり探求し、収録曲の誕生秘話や時代背景、アルバムが完成するまでの道のりを知るのは、とんでもなく刺激で衝撃的な体験でした。彼こそ真の天才であり、唯一無二のアーティストだと、改めて思い知らされました。彼の歌には、凄まじいパワーがある。自分で歌ってみると、そこに込められたメッセージに感動して、胸がいっぱいになってしまうことも度々ありました。歌詞を本当に理解することができれば、1曲1曲が持つ高い精神性と崇高さに気づくはず。この映画を観る人たちも、改めて彼の音楽の素晴らしさに気づき、歌詞に込められたメッセージをしっかり受け止めてくれることを願っています。
■公開情報
『ボブ・マーリー:ONE LOVE』
全国公開中
監督:レイナルド・マーカス・グリーン
出演:キングズリー・ベン=アディル、ラシャーナ・リンチ
脚本:テレンス・ウィンター、フランク・E・フラワーズ、ザック・ベイリン、レイナルド・マーカス・グリーン
配給:東和ピクチャーズ
©2024 PARAMOUNT PICTURES
公式サイト:https://bobmarley-onelove.jp/
公式X(旧Twitter):https://x.com/BM_OneLove_JP