『虎に翼』伊藤沙莉&仲野太賀が模索する“夫婦”の形 “結婚=幸せ”ではない近年の朝ドラ

『虎に翼』結婚=幸せではない近年の朝ドラ

 そもそも結婚が描かれなかった作品もある。代表的なものには2016年度前期に放送された『とと姉ちゃん』がある。高畑充希演じる「とと姉ちゃん」こと小橋常子は最後まで結婚することはなかった。星野武蔵(坂口健太郎)との恋は描かれたものの、彼らは2度の別れを経験することになる。しかし今作が無理やり恋を成就させることなく、お互いの胸に初恋の思い出や想い合う気持ちを刻みながらの別れを描くさまは、さまざまな人との出会いと別れを真摯に描く作品として印象を残した。

『ブギウギ』スズ子がぶち当たる“結婚”か“仕事”か 過去の朝ドラから考える悩みの本質

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 また、前作『ブギウギ』では結婚が叶わなかった。趣里演じる主人公・スズ子と水上恒司演じる愛助は結婚を望んでいたが、愛助の母・トミ(小雪)から反対されたり、結核を患う愛助の体調が悪化したり、さまざまな理由から籍を入れることができずにいた。劇中、結婚か仕事かの選択を強いられる描写の中で、スズ子と愛助はその両方を叶えるために奮闘するも、最愛の人である愛助は病によって死を迎えた。しかし結婚が叶わずとも、2人が暮らす日々には確かに幸せが感じられた。

 これまでの朝ドラの中には、視聴者に「結婚=幸せ」を感じさせる作品も当然あると思うが、それは決して絶対的なものではない。「結婚=幸せ」もある。すれ違いなどの苦しさを描くものもある。結婚しない・できないから幸せではないという描き方はしない。結婚まで描き切らない作品も多々あったことから、今後は結婚や恋愛が描かれない作品も出てくることだろう。

 『虎に翼』で「結婚」を選んだ主人公・寅子。優三と寅子の結婚観は合理的に映る。だが、これまでの回で優三が寅子を気遣ったり、逆に寅子に励まされたりという場面で、優三演じる仲野の表情が優しく穏やかに映るのを見る限り、優三には寅子を思う気持ちがあるのではないかと感じる。寅子の夢を応援するために、家庭に入ってほしいという思いを飲み込んだ花岡(岩田剛典)もさることながら、優三もまた、寅子の夢を誰よりも理解している人物だ。社会的地位が求められる現実への痛みを共有できる優三なら、猪突猛進な寅子を応援し、彼女の決断を受け入れることができるといえる。寅子が優三に対して恋愛感情を抱くのかどうかはまだ定かではないが、一緒に法律を学んできた同志である2人の間柄は、社会的地位を上げるための「結婚」だけでなく、ともに歩むパートナーとしての「夫婦」の関係を構築していくのではないだろうか。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『虎に翼』
総合:毎週月曜〜金曜8:00〜8:15、(再放送)毎週月曜〜金曜12:45〜13:00
BSプレミアム:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜8:15〜9:30
BS4K:毎週月曜〜金曜7:30〜7:45、(再放送)毎週土曜10:15~11:30
出演:伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫
作:吉田恵里香
語り:尾野真千子
音楽:森優太
主題歌:米津玄師「さよーならまたいつか!」
法律考証:村上一博
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:石澤かおる
取材:清永聡
演出:梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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