【新連載】小川紗良の「かけだしの映画たち」 『システム・クラッシャー』の凄まじい破壊力

『システム・クラッシャー』の凄まじい破壊力

 「救ってあげよう」「寄り添ってあげよう」などという気持ちは、相手を自分の支配下に置く構造を生み出しかねない。支配構造の中で、「救ってあげよう」という気持ちは「救ってあげたのに」という利己的な感情を育む。絶えず「自分は通学付添人だ」「これはただの教育措置だ」と立場を主張していたミヒャでさえも、ベニーとの境界線を一歩踏み越えてしまった。人が人を救うのは、容易いことではない。支援とは、自分の無力さを自覚するところから始まるのかもしれない。

 では、いったい何をどうすれば良いのか。この映画を見つめるうちに、本当に壊れているのはベニーではなく、社会の構造だと気付かされる。ベニーも、母親も、施設の職員も、みな社会の歪みのなかにいる。どうしようもなくこぼれ落ちながら、懸命にもがき続けている。その真ん中で、ベニーはパッションピンクのジャンパーに負けないほど、頬を紅潮させ暴れ回る。「愛してる」のかわりに「死んじまえ!」と叫ぶ少女を、圧倒的強さで演じ切ったヘレナ・ツェンゲル。社会への眼差しを少女の視点で見事に昇華させた、監督のノラ・フィングシャイト。このふたりの勇敢な女性による強烈ストレートパンチが、世の中に一発食らわせるデビュー作だった。ベニーよ、どこまでもぶち切れろ!

■公開情報
『システム・クラッシャー』
シアター・イメージフォーラムほかにて公開中
監督・脚本:ノラ・フィングシャイト
撮影:ユヌス・ロイ・イメール
音楽:ジョン・ギュルトラー
出演:ヘレナ・ツェンゲル、アルブレヒト・シュッフ、リザ・ハーグマイスター、ガブリエラ=マリア・シュマイデ
提供:クレプスキュール フィルム、シネマ サクセション
配給:クレプスキュール フィルム
後援:ゲーテ・インスティトゥート東京
2019年/ドイツ/ドイツ語/カラー/125分/ビスタ/原題:Systemsprenger /英題:System Crasher/日本語字幕:上條葉月
©2019 kineo Filmproduktion Peter Hartwig, Weydemann Bros. GmbH, Oma Inge Film UG (haftungsbeschränkt), ZDF
公式サイト:http://crasher.crepuscule-films.com

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