Netflixで再アニメ化された『T・Pぼん』の試みとは 藤子・F・不二雄の手腕などから紐解く
『T・Pぼん』 は、1989年に日本テレビ系で放送されたアニメスペシャル版が存在する。その脚本を担当した雪室俊一が手がけている、藤子・F・不二雄原作の『ミノタウロスの皿』のアニメ版(オリジナルビデオ作品)もまた、少女に対する社会的、因習的な暴力が描かれていた。本シリーズの拷問シーン同様、これがとりわけショッキングなものとして映るのは、『ドラえもん』に代表される藤子・F・不二雄の、子どもを対象とするような、かわいらしい絵柄でそれが表現されているからだろう。
藤子・F・不二雄のポップなキャラクターデザインは、アニメーション向きであるともいえるが、本シリーズでは、そこをあえて崩し、漫画のペンタッチを感じさせる、ザラっとした輪郭線が特徴的である。これは2005年以降版の『ドラえもん』アニメシリーズの一部でも見られた手法だが、ともすればシンプルになりすぎてしまうキャラクターたちの表現に複雑性をとり入れるという意味で効果的だといえよう。
エピソード8「戦場の美少女」で描かれるのは、1945年沖縄での日本軍による航空特攻作戦だ。ここでおこなわれたことは、日本軍の操縦士たちを戦闘機ごとアメリカの艦船に突っ込ませるという無謀かつ非人間的なもので、甚大な被害と犠牲者が生まれている。ぼんは一人の軍人を救出する命を受け戦場にたどり着くが、アメリカ軍も日本軍も次々と命を落としていく、地獄のような惨状を目の当たりにすると義憤に駆られ、「誰彼区別することないよ、みんな助けりゃいいんだ!」と叫ぶ。
さまざまな時代と場所で窮地に立たされる人々の物語といえば、サイレント期の名作映画『イントレランス』(1915年)が想起される。「不寛容」をキーワードに、歴史のなかで虐げられていく人々の姿が交互に映し出される内容は、まさに本シリーズの内容そのままだといえる。そう考えれば本シリーズは、藤子・F・不二雄なりの『イントレランス』だと見ることができる。
同時に、歴史に名を残す「偉人」といわれる者たちではなく、いまでは忘れ去られた大多数の側の人々を救おうとする、本シリーズの内容は、宮﨑駿監督の『もののけ姫』(1997年)同様に、裏側から歴史を描こうとする試みだとも考えられる。
“並平ぼん”という主人公が、平凡な存在であることを強調されているように、いつの時代も、どこの場所でも、権力の中心の座につこうとするのでなく、平凡に生きる幸せを享受したいと願う人々が存在する。原作も、本シリーズも、そういう生き方をする大多数の“ぼん”たちへの賛歌となっていると感じられるのである。
本シリーズ(全12エピソード)は、原作の途中の印象的な箇所で、唐突なラストを迎えることになる。だが、心配することはない。シーズン2が2024年7月より配信されることが、すでに発表されているのだ。原作で描かれた、ぼんの時間の冒険は、まだ継続されるのである。注目は、完結しなかった原作の先の展開に本シリーズが足を踏み入れるかどうかという点だろう。そこへの興味を含め、夏を楽しみに待ちたいところだ。
■配信情報
Netflixシリーズ『T・Pぼん』
シーズン1:Netflixにて配信中
シーズン2:Netflixにて、7月17日(水)より世界独占配信
キャスト:若山晃久、種﨑敦美、宮野真守、黒沢ともよ、日笠陽子、伊藤節生、白砂沙帆、加瀬康之
原作:藤子・F・不二雄『T・Pぼん』
監督:安藤真裕
シリーズ構成:柿原優子
メインライター:佐藤大
音楽:大島ミチル
アニメ―ション制作:ボンズ
製作:Netflix
©️Fujiko-Pro ©️2024 Netflix