『フォロウィング』から『カメラを止めるな!』まで 低予算映画ならではの制約と工夫に迫る

低予算映画ならではの制約と工夫を考える

低予算ならではの工夫 ソリッドなシチュエーション

 低予算映画についてまわる問題、それは「用意できるものが限られる」ことである。 「用意できるもの」には「ロケ地」も含まれる。

 『フォロウィング』と『エル・マリアッチ』は共通して、ほとんどの場面が「室内」と「路上」で構成されている。理由は簡単で、許可が取りやすいためだ。

 室内は友人、親戚、知人などの伝手があれば善意で許可がもらえる。路上撮影は本来は道路使用許可が必要だが、路上撮影を無許可のゲリラ撮影でやることは商業映画でも度々ある話である。もちろん、場の用意に費用はかからない。

 『フォロウィング』は「尾行」、『エル・マリアッチ』は「小さな田舎町での逃走」とシチュエーションを絞っている。ノーランもロドリゲスも共に優秀な脚本家・演出家であり、シチュエーションを絞っても十分に成立する物語を構築している。

 また、双方に共通しているのは「サスペンス」であることだ。狭い画は映る部分を限定してしまうが、それと同時に狭さからくる心理的圧迫感がある。心理的圧迫感を感じさせるビジュアルはサスペンスにぴったりである。ハンガリー映画『サウルの息子』は敢えて4:3の縦長画面にして、狭い画を多用し絶大な演出効果をあげていた。同作も製作費は150万ユーロ(約2億4400万)に過ぎず、世界的に公開された商業映画としてはかなり低予算な部類に入る。

 ノーランとロドリゲスは共に、自ら撮影と編集も兼任している。テンポの良い編集と、小気味の良いカット割りで物量が少ないなりの制約のある中、魅せる演出をしている。

 このソリッドなシチュエーションは他の超低予算映画でもよく見られる手法だ。

 驚異的な利益率を上げた『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』は、製作費6万ドル(約920万円)で『フォロウィング』と『エル・マリアッチ』に比べると高額だが、こちらも格段に安い。同作は場を魔女伝説が伝わる森の中に限定している。『パラノーマル・アクティビティ』はもっと極端で、場のほとんどが一軒家の中に限られる。監督の自宅で撮影されており、製作費は1万5000ドル(約230万円)に過ぎない。これらの超低予算映画に比べると高額だが、ほとんどの出来事が鎖につながれたバスルームの中で起きる『ソウ』もソリッドなシチュエーションの作品である、同作の製作費120万ドル(約1億8300万円)も商業映画としては格段に安い部類に入る。「低予算」なはずの『パスト ライブス/再会』の10分の1である。

 場が限定されることから逆算して話や見せ方を考える。これは低予算で見せるための重要な工夫と言えるだろう。

人件費の問題&有名俳優不在の映画

 ダニエル・クレイグが『ナイブズ・アウト』の第2弾&第3弾で受け取るギャラは1億ドル(約153億円/配信契約料込)らしい。超低予算映画の制作者からしたら天文学的な数字である。

 筆者が本稿で取り上げる作品に彼のような有名俳優の出演はない。ギャラについてははっきりとして記録が公開されていない場合が多いのだが、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の主演3人が受け取ったギャラは1000ドル(約15万円)だったという。他の超低予算映画についてもギャラは推して知るべしのレベルであろう。

 極端な例だと、製作費300万円の超低予算映画ながらわが国で異例の大ヒットとなった『カメラを止めるな!』はノーギャラである。同作は監督、俳優養成スクール・ENBUゼミナールの実習の一環であり、キャストはギャラが発生するどころかENBUゼミに受講料を支払って出演していたとのことだ。

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 『フォロウィング』はテレビシリーズである程度の名前の知れたジョン・ノーランという俳優が出演している。これにはからくりがある。名前から想像がつくことと思うが、ジョン・ノーランはクリストファー・ノーランの親戚・叔父にあたる。友情出演ならぬ“親族出演”だったのだろう。余談だが、ジョン・ノーランはクリストファーの弟、ジョナサン・ノーランが製作総指揮を務めた『パーソン・オブ・インタレスト』にも出演している。こちらはビッグバジェットのテレビシリーズなので、それなりの額のギャラが支払われたことだろう。ドキュメンタリー映画の『デート・ウィズ・ドリュー』には有名俳優のドリュー・バリモアが出演しているが、同作の製作費は『フォロウィング』よりもさらに安い1100ドル(約17万円)である。まず間違いなく、善意の友情出演だろう。

 『フォロウィング』主演のジェレミー・セオボルドと『エル・マリアッチ』主演のカルロス・ガラルドーは、製作に名を連ねている。推測だが、ヒットしたら見返りが発生するかわりに製作費に出資していたのではないだろうか。ジェレミー・セオボルドはノーランがメジャーデビューしてから、『バットマン ビギンズ』と『TENET テネット』に顔見せしている。カルロス・ガラルドーは『エル・マリアッチ』のセルフリメイク作品『デスペラード』に出演している。『デスペラード』の製作費は『エル・マリアッチ』の1000倍である。

 『カランコエの花』は製作費不明(監督が知人なので何となく聞いたことはあるが)だが、こちらも超低予算作品だ。当時無名だった今田美桜と笠松将が出演しているが、ご存じの通り彼らは今や売れっ子である。ギャラの額は不明だが、少なくとも当時は高くはなかったのは確かである。彼らのギャラは格安か、またはゼロだった可能性もあるが、後に見返りは十分に受け取ったことだろう。

 また、超低予算映画は監督が複数のポジションを兼ねていることが珍しくない。商業映画では監督は監督のみに専念するか、あっても製作・脚本を兼任する程度で、自分で編集をするぐらいはあってもいくつもポジションを兼ねることは稀である。スター俳優出身の監督の場合、自ら出演する場合もあるが。

 ノーランとロドリゲスは自身で監督・製作・脚本・撮影・編集を兼任している。監督が複数ポジションを兼ねる理由は、言うまでもなく人件費を抑えるためである。最も働いたのは間違いなく監督自身だろう。

 なお、ノーランがほぼ超ビッグバジェット専門のようになっているのに対し、ロドリゲスは有名になってからも超低予算映画『RED 11(原題)』を製作している。同作の製作費は7000ドル(約100万円)である。ロドリゲスは監督・脚本・原作・製作・撮影・編集・音楽を兼任している。

口コミによる宣伝

 映画はビジネスである。劇場で公開となった場合、製作者は観客を呼ぶ方法を考えなければならない。そこでも超低予算であることが制限になる。

 筆者がとある商業監督経験者に聞いた話だが、その監督が手掛けた商業映画は予算9000万円のうち、4000万円が宣伝費だったとの話だ。宣伝は映画ビジネスにおいて重要な要素であり、中身と大差ない予算をかける価値があるということだ。

 超低予算映画の場合、大々的にプロモーションすることは予算的に不可能である。となると、頼りになるのは「足で稼ぐ営業」と「口コミ」の二つである。その二つで異例の大ヒットとなったのが『カメラを止めるな!』だ。筆者は、自作が最初に劇場にかかった時に、『カメラを止めるな!』関係者から話を聞く機会を得た。話では、出演者総動員でチラシを配る人海戦術に出たとのことだ。

 口コミで広まるにしても、友人、知人、親戚でも構わないので、まずはある程度の人数に観に来てもらわなければならない。チラシ配りと前売り券の手売りは泥臭いが、有効な手段であり、インディーズ映画の宣伝ではよく使われる手法である。最終的に、『カメラを止めるな!』は口コミで評判が広がり、異例の大ヒットとなった。インディーズならではの制約が発生する宣伝手法で最大効果を発揮した例だろう。

■公開情報
『フォロウィング』25周年HDレストア版
全国公開中
出演:ジェレミー・セオボルド、アレックス・ハウ、ルーシー・ラッセル、ジョン・ノーラン
製作・監督・脚本・編集・撮影:クリストファー・ノーラン
製作総指揮:ピーター・ブロデリック
製作:エマ・トーマス、ジェレミー・セオボルド
音楽:デイヴィッド・ジュルヤン
配給:AMGエンタテインメント
1998年/イギリス映画/モノクロ/70分
©2010 IFC IN THEATERS LLC
公式サイト:https://following-2024.com

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