『光る君へ』で考える、紫式部が『源氏物語』を生み出した理由 美しい愛と絶望に釘付け
大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)第10話までの物語は、「立志編」とでも名付けることができるのではないだろうか。吉高由里子演じるヒロイン・まひろと、柄本佑演じる藤原道長が、それぞれの持って生まれた使命を見つけるまでの物語。
そしてそれは、2人が運命の出会いと罪の共有というなんとも過酷な形で以て「ソウルメイト」として結ばれる話であり、「都という鳥籠」から出たくても出られない鳥たちの話でもあった。
段田安則演じる藤原兼家を中心とした、藤原一族による、さながら平安版『ゴッドファーザー』とでも言いたくなるパートは、ユースケ・サンタマリア演じる安倍晴明の不穏さと相まって、一昨年の『鎌倉殿の13人』(NHK総合)を思わせる怒涛の展開だ。
一方で、柄本佑、毎熊克哉、井浦新、玉置玲央、町田啓太、本郷奏多といった優れた俳優陣が綺羅星のように散りばめられる中、ヒロイン・まひろを中心に繰り広げられる様々な出来事の少女漫画的要素にキュンとさせられる一面もありつつ、何よりの醍醐味は、本作を通して、古典文学そのものの奥深さを味わうことではないだろうか。
まひろが倫子(黒木華)のサロンにて『竹取物語』や『蜻蛉日記』の本質を的確に分析してみせるように、視聴者が、登場人物たちが詠む詩の意味について、ドラマが終わった後もしばし思いを巡らせずにはいられないという傾向は、これまでの一般的な「大河ドラマ鑑賞」にはあまりなかったように思う。
第10回において、大河ドラマにおいては珍しいほど濃密に、まひろと道長が結ばれる場面が描かれた。しかしその一方で、行成(渡辺大知)が解説する、和歌と漢詩のそもそもの性質の違いからも伝わってくるように、彼らの恋のやり取りは異色だった。和歌を用いてひたすらに「会いたい」と告げる情熱的な道長に対し、まひろは漢詩を用いて、努めて冷静に、自分自身と愛する人の持って生まれた使命を見出そうとする。
ラブストーリーの中に、実に見事にまひろの葛藤と意志を汲み込んだ大石静脚本の妙が、そこにあると思った。そしてその根底には言うまでもなく、我々視聴者を魅了したオリジナルキャラクター・直秀(毎熊克哉)の死があった。