『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』は“楽しい”突きつけた一作に 今井一暁監督の手腕
物語についても触れておきたい。こちらは意図が明確であり、とても難しいことに挑戦していると感じられた。人類史上で音楽が初めて奏でられた瞬間を想像してほしい。そこには、どんな思いがあり、人間の歴史と音楽はどのようにあったのか。そんな壮大な思いを抱くSFの醍醐味を感じさせる物語でもあった。
しかし、音楽というテーマを、映像や物語にしていることもあってか、一部で難があるとも感じられた。中盤のミッカの暮らす星の説明がやや冗長気味であったり、あるいは全体的に展開が少し遅いようにも感じられた。
だが、筆者はこれでいいとも考えている。なぜならば音楽と歴史という壮大なテーマを扱いつつ、設定にも意味を持たせ、何よりも映像と音楽を最大限に引き立てるための物語にしているからだ。
そして最も重要なのは、今作はいわゆる“うまい作品”ではないことだ。もちろん、映画としてお金を払う観客が以上、一定のレベルが求められるのはいうまでもない。だが、今作ののび太たちのように音を楽しむ場合、そこに上手い下手が果たして必要なのだろうか。
パンフレットでは音楽を務めた服部隆之がこのように語っている。
「上手になるまで絶対に続けなきゃいけない、などと考える必要はありません。飽きてしまったらやめちゃってもいい。好きだから、楽しいから、ワクワクするから演奏したい、という気持ちを大切にしましょう!」
これはファミリー層向けの、特に児童に向けられた言葉だろう。そして同時に何かを楽しむのに上手いとか下手というのにこだわる必要はない。あるいはそこにこだわるのはかなり高いレベルを要求されるようになってからでも十分だと言える。実際には小学校であろうとも音楽の授業があり、発表会があるだろう。その中で採点や順位付けをされたり、それがなくても他者と比較されることで、自分のレベルを思い知ることになる。だが、それを理由に楽しいという思いを否定されるいわれはない。
物語表現に難があるからこそ、今作は“楽しい”をより突きつける作品になったのではないだろうか。映像表現の楽しみ方は多岐にわたるが、今作は映像と音楽の一体感を味わえる作品となっている。意図が明確で突き抜けた表現に、心から楽しませてもらった。
■公開情報
『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』
全国公開中
原作:藤子・F・不二雄
監督:今井一暁
脚本:内海照子
キャスト:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、平野莉亜菜、菊池こころ、チョー、田村睦心、芳根京子
主題歌:Vaundy「タイムパラドックス」(SDR)
配給:東宝
©︎藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2024
公式サイト: https://doraeiga.com/2024/