『のび太の地球交響楽』に感じた“ドラえもんらしさ”からの脱却 大長編だからこその魅力も
無論、それは国民的アニメとして今後も長く愛されていくためには必要なアップデートなのかもしれない。従来の『ドラえもん』の中核を担ってきた“藤子・F・不二雄的題材”から少しだけ離れ、ドラえもん、のび太、しずかちゃん、ジャイアン、スネ夫というキャラクターだけでどの程度まで代入が可能となるのか。そういった意味ではパラレルな、“藤子らしくない”今回の大長編映画にはそうした試行錯誤が見え隠れしている。
それでもそこかしこに、かつての大長編を思い出させてくれるようなポイントがないわけでもない。序盤でのび太が音楽の授業からの逃避を求め、「あらかじめ日記」を使って一日だけ“音楽のない世界”を作り出してしまう。これが後に地球に危機をもたらすきっかけとなるわけだが、こうした“ifの世界”が大きな騒動へ発展していく様は『映画ドラえもん のび太の魔界大冒険』の影響を感じる。また、ドラえもんたち5人が惑星ムシーカを救う救世主的な音楽の達人“ヴィルトゥオーゾ”だと言い伝えに照らし合わされる一連は、『映画ドラえもん のび太の大魔境』のようでもある。
もうひとつ“らしくない”なりに光を感じたのは、惑星ムシーカに向かうまでの経緯。家に届いた謎の手紙(とてもアナログ!)の指示に従い、5人は夜の小学校に忍び込む。夜の音楽室でピアノを弾くとベートーベンの肖像画が……というどこの小学校にもあるような“怖いウワサ”に震えながら音楽室に入り、しずかちゃんのピアノの演奏で惑星ムシーカへの扉が開かれる。頭でっかちに考えれば夜の学校に侵入するのはよろしくはないことだし、たぶん現代の小学校ではそう簡単に入ることができないだろう。それでもこうした『学校の怪談』のような懐かしいシチュエーションに今でもワクワク感が見出されるだけでときめかずにはいられない。
■公開情報
『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』
全国公開中
原作:藤子・F・不二雄
監督:今井一暁
脚本:内海照子
キャスト:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、平野莉亜菜、菊池こころ、チョー、田村睦心、芳根京子
主題歌:Vaundy「タイムパラドックス」(SDR)
配給:東宝
©︎藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2024
公式サイト: https://doraeiga.com/2024/