映画興行の健康診断? 春の『ドラえもん』定点観測

春の『ドラえもん』定点観測

 3月第1週の動員ランキングは、『映画ドラえもん』シリーズの43作目、『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』がオープニング3日間で動員53万8000人、興収6億5600万円をあげて初登場1位となった。昨年同時期に公開された『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』とのオープニング3日間との興収比は、99%という驚くべき安定感。1980年の『ドラえもん のび太の恐竜』(併映作品は松本零士がポスターを手がけた再編集版『モスラ対ゴジラ』)から43年間にわたって毎年3月に公開されてきた『映画ドラえもん』シリーズだが、この安定感には価値がある。

 というのも、本コラムでは約10年にわたってこれまで『映画ドラえもん』シリーズの興行を追ってきたが、それは『映画 ドラえもん』シリーズ単体の興行価値の変動という要素を超えて、日本の映画興行全体を定点観測する際の格好の物差しになり得るからだ。『映画ドラえもん』シリーズが初めて興収30億円を超えたのは、2000年の『ドラえもん のび太の太陽王伝説』。2016年の『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』では初めて興収40億円を超えて、そこからさらにピークを更新。コロナ禍直前の2018年の『映画ドラえもん のび太の宝島』と2019年の『映画ドラえもん のび太の月面探査記』は2作連続で興収50億円を超えた。

 ちょうど2020年3月に本格化したコロナ禍の影響をダイレクトに受けて、シリーズ40周年記念作品だった『映画ドラえもん のび太の新恐竜』は40年目にして初めてルーティンが崩れて8月の公開に。それを受けて、翌年公開予定だった『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』も公開を1年遅らせて2022年3月の公開に。両作の興行収入はそれぞれ33.5億円と26.9億円。『映画ドラえもん』にとっていかに「毎年3月はドラえもん」という習慣が重要であったかということ、そしてそれがファミリー層の観客(2022年3月の時点ではまだファミリー層の客足は回復してなかった)によって支えられていたかを証明することとなった。

 ようやく映画興行が平常運転となった昨年の『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』では、興収43.4億円まで回復。ロングヒットのゾーンに入っている『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』という強力なライバルがありながら、今回の『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』も前年と遜色のないヒットを記録している。『映画ドラえもん』シリーズが過去最高興収を記録したのは2018年の『映画ドラえもん のび太の宝島』。思えば、そこからもう6年経ってるわけで、中心となるファミリー層の観客は子供も親もかなり入れ替わっているに違いない。そこから見えてくるのは、『映画ドラえもん』シリーズの時代や世代を超えた普遍的な人気と、少なくともシネコンでの上映環境に関して言うなら、日本において「劇場で映画を観る」文化は死んでいないということだ。

■公開情報
『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』
全国公開中
原作:藤子・F・不二雄
監督:今井一暁
脚本:内海照子
キャスト:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、平野莉亜菜、菊池こころ、チョー、田村睦心、芳根京子
主題歌:Vaundy「タイムパラドックス」(SDR)
配給:東宝
©︎藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2024
公式サイト: https://doraeiga.com/2024/

『今週の映画ランキング』(興行通信社):https://www.kogyotsushin.com/archives/weekend/

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