『ブギウギ』は『あまちゃん』『ひよっこ』寄り? “サクセスもの”ではないスズ子の描き方

『ブギウギ』は“サクセスもの”ではない?

 毎週のように、スズ子の新曲ステージ場面はある。「ラッパと娘」「センチメンタル・ダイナ」「アイレ可愛や」「大空の弟」「コペカチータ」「東京ブギウギ」「ジャングル・ブギー」と華やかなステージシーンはたしかに楽しめている。が、その曲やステージが生まれる過程はあまり深掘りされてはいない。残念ながら、バックステージもの、芸談のようなものを好む視聴者は限られているので、そっちに寄らないようにしているということもあるだろう。

 第21週は、とうとう、お決まりの新曲をステージで披露するパターンもなくなって、スズ子は「ヘイヘイブギー」を寝室で愛子に添い寝しながら、子守唄のように歌う。「あんたとマミーの歌やで」と。羽鳥は「恋の歌だ」と言っていたが、スズ子は母の歌として「ヘイヘイブギー」を捉えていたことは、笠置シヅ子の自伝にも書かれているが、おそらく多くの人が知らないことだったろう。陽気に浮かれた恋の歌は、愛する娘といるときが最も幸福だった笠置シヅ子の想いがこめられた。

 タナケンに、「子育てに悩んでいることは、観客に関係ない、演技や歌で見せるしかない」と言われたスズ子が、子育てに悩む母の思いを歌に込めた、ということだ。そして、そういうことをスズ子は言葉にしないで、歌そのものに託した。

 福来スズ子は、歌よりも何もよりも娘が大事で、彼女のために自分ができることが歌や演技であっただけ。才能を持ったスターである前に、誰もが同じ、家族を持つ者であり、生活者であるという眼差しは、朝ドラの歴史でも興味深い題材である。

 惜しいのは、その大事な子育ても、素敵な工夫は、大野の、お花の障子にすれば破らないというものであったこと。大野の株は瀑上がりしたが、スズ子は子育てのノウハウも言葉にしない(彼女のなかにはまだない)のである。福来スズ子とは、言葉にならない、ノウハウを保たない、ひたすら漠たる愛情によって生きる、なかなか個性的な人物である。それが、あの笠置シヅ子の独特の、はじけるような踊りにあらわれているようにも思える。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、生瀬勝久、小雪、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
語り:高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー) 
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
音楽:服部隆之
主題歌:中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」
写真提供=NHK
公式サイト:https://nhk.jp/boogie

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