第75回エミー賞、なぜゴールデングローブ賞と同じような受賞結果に? 現地ライターが解説

第75回エミー賞の結果を現地ライターが解説

 第75回プライムタイム・エミー賞授賞式がロサンゼルス現地時間1月15日に行われた。エミー賞は、北米でテレビ番組製作に関わるテレビジョン・アカデミー会員が選ぶ賞で、テレビ作品の最高峰を決める賞と言われている。ご存知のように、2023年のハリウッドは、5月に始まった脚本家協会(WGA)と7月に始まった映画俳優組合(SAG-AFTRA)のダブルストライキによって、開店休業状態にあった。第75回エミー賞は、2022年6月1日から2023年5月31日に配信・放送された作品が対象で、テレビジョン・アカデミー会員が選んだ各賞のノミネーションは2023年7月12日に発表されていた。

第75回エミー賞、『メディア王』が最多27ノミネート 関係者の頭を悩ますストライキの影響

北米時間7月12日早朝に第75回プライムタイム・エミー賞のノミネーションが発表された。2022年6月1日から2023年5月31日…

 約2万人の会員による最終投票は規定通り8月17日から28日まで行われたが、授賞式は例年の9月から翌年1月14日に延期された。つまり、1年半から半年前に放送された作品について4カ月前に投票した結果が、1月15日に開示されたのだ。授賞式後の報道は主に2つ、特定の作品が主要賞を独占したこと、そして視聴率の低下についてだった。

注目を集めた受賞者のスピーチ

キンタ・ブランソン Photo by John Salangsang/Invision for the Television Academy/AP Images
アヨ・エデビリ Photo by John Salangsang/Invision for the Television Academy/AP Images

 それでも注目を集める結果やスピーチも多かった。コメディドラマシリーズ部門の主演女優賞をキンタ・ブランソン(『アボット エレメンタリー』)が、助演女優賞をアヨ・エデビリ(『一流シェフのファミリーレストラン』)の二人の黒人女優が受賞したのはエミー賞始まって以来の快挙。前週のゴールデングローブ賞でドラマシリーズ部門主演男優賞を受賞したキーラン・カルキンは、同カテゴリーにノミネートされていたペドロ・パスカル(『THE LAST OF US』)に向かって、「ざまあみろ、ペドロ! 悪いな、これは俺のだ」と、『メディア王~華麗なる一族~』のキャラクターそのままのようなスピーチを行った。

Kieran Culkin Wins Best Television Male Actor – Drama Series I 81st Annual Golden Globes

 もちろんこれはジョークだが、エミー賞でプレゼンターに立ったペドロ・パスカルは怪我した腕(実際は肩だそう)を指して「多くの方々に怪我について聞かれますが、真実をお伝えしましょう。これはキーランにやられたんです」とさらにジョークで返した。

(左から)ジャズ・チャートン、キーラン・カルキン Photo by Danny Moloshok/Invision for the Television Academy/AP Images

 そのキーランはエミー賞主演男優賞の受賞スピーチでも場内を爆笑で包んだ。母への謝辞で声を詰まらせたあと、妻のジャズ・チャートンに感謝し、「二人のかわいい子どもにも恵まれて……もっと欲しいです。君は、僕が受賞できたら考えると言ったよね?」と述べると、共演者で主演女優賞を受賞した姉シヴ役のサラ・スヌークも大爆笑。

(左から)ペドロ・パスカル、マシュー・マクファディン Photo by Phil McCarten/Invision for the Television Academy/AP Images

 ペドロ・パスカルが発表した助演男優賞はマシュー・マクファディン(『メディア王』)が受賞し、家族への感謝の前に「劇中の妻役であるサラ・スヌークに感謝します。そしてもう一人の劇中の女房役ニコラス・ブラウン(グレッグ役)にも感謝を」とスピーチ。

 2月24日に行われるSAG賞(映画俳優組合賞)では、ローガン家の面々にどんなハプニングが生まれるのかが注目されている。

なぜエミー賞の視聴率が低下しているのか

第75回エミー賞授賞式での『メディア王~華麗なる一族~』チーム Photo by Phil McCarten/Invision for the Television Academy/AP Images

 米4大ネットワーク局が輪番制で放送するエミー賞だが、今年はFOXが放送権を持ち、日曜夜のアメフト試合中継を回避し、第74回に続き月曜日の夜に行われた。視聴率は430万人で、昨年の590万世帯を下回る結果となった。1月7日(日)にCBSとパラマウント・プラス(米国)及びVarietyのHPで世界配信されたゴールデングローブ賞の視聴率は940万世帯で、NBCで火曜日の夜に放送された2023年の第80回の630万世帯から50%近くも上昇している。エミー賞の前日、1月14日(日)にケーブル局のCWで放送された第29回放送映画批評家協会賞の視聴率は90万世帯だった2023年度に比べて14%アップの114万世帯を記録。現在、アメリカのテレビ局で放送されるコンテンツの視聴率トップをほぼアメフト試合中継が占めていて、日曜の試合放送直後に放送されたゴールデングローブ賞に、人気選手と交際中でアメフト観客と親和性の高いテイラー・スウィフトが出席したことが視聴率大幅アップの理由だと見られている。そうした飛び道具がないと、3時間もの間視聴者をテレビの前に留まらせることは難しくなっている。

 エミー賞の視聴率低下理由には、テレビを持たないコードカッター世代とも言える18歳から49歳の視聴者数が急激に減り、ネットワーク局で放送される番組ではなく、HBOなどのプレミアム(有料)チャンネルか、Netflixなどの配信作品が人気を集めるようになったことが挙げられる。プライムタイム・エミー賞受賞作品で唯一のネットワーク局作品は、ABCで放送(Huluでも同時配信)されている『アボット エレメンタリー』のコメディ部門主演女優賞(キンタ・ブランソン)のみ。FOXやCBSなどネットワーク局の視聴者と、エミー賞やゴールデングローブ賞などのアワードショーにノミネートされる作品を好む層との乖離が進んでいることが、視聴率低下の最も大きな理由だろう。エミー賞で各部門賞を独占した3作品の多様性に満ちた出演者も、ネットワーク局の視聴者には馴染みが薄かったはずだ。

『メディア王~華麗なる一族~』チーム(左から)マシュー・マクファディン、サラ・スヌーク、キーラン・カルキン Photo by John Salangsang/Invision for the Television Academy/AP Images

 ノミネーションの段階では、『メディア王』(HBO/U-NEXT)が27ノミネートでトップに立ち、『THE LAST OF US』(HBO/U-NEXT)の24ノミネート、『ホワイト・ロータス / 諸事情だらけのリゾートホテル』(HBO/U-NEXT)の23ノミネート、『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』(Apple TV+)の21ノミネートと続く。だが、受賞結果を見ると、前日に行われたクリエイティブアーツ・エミー賞も合わせて『一流シェフのファミリーレストラン』(Hulu/ディズニープラス)が最多10部門受賞、続いて『BEEF/ビーフ ~逆上~』(Netflix)と『THE LAST OF US』が8部門で並び、『メディア王』が6部門となっている。『THE LAST OF US』は技術賞を多く受賞したが、コメディシリーズ部門の『一流シェフのファミリーレストラン』、ドラマシリーズ部門の『メディア王』、リミテッドシリーズ部門の『BEEF/ビーフ』が、作品賞、俳優賞、監督賞、脚本賞などをSweep(全勝)する結果となった。

第75回エミー賞、『メディア王』『一流シェフのファミリーレストラン』が最多6部門受賞

第75回エミー賞の授賞式が、1月15日(現地時間)にアメリカ・ロサンゼルスで開催された。  エミー賞は、アメリカで放送・配信さ…

 第75回エミー賞の1週間前に発表された第81回ゴールデングローブ賞、前日の1月14日に行われた第29回放送映画批評家協会賞(クリティクス・チョイス・アワード)でもほぼ同様の結果となっている。エミー賞では『ホワイト・ロータス』のジェニファー・クーリッジが2年連続受賞したが、ゴールデングローブ賞は助演女優賞に『ザ・クラウン』のエリザベス・デベッキを選び、放送映画批評家協会賞はデベッキ(ドラマ部門)とメリル・ストリープ(コメディ部門、『マーダーズ・イン・ビルディング』)が受賞。ちなみにクーリッジは2023年度のゴールデングローブ賞と放送映画批評家協会賞で助演女優賞を受賞している。『ホワイト・ロータス』シーズン2は北米で2022年10月から12月に放送されていたので、ゴールデングローブ賞などは前年度の扱いになっていた。コメディシリーズ部門で作品賞、主演男優賞(ジェレミー・アレン・ホワイト)、助演男優賞(エボン・モス=バクラック)、助演女優賞(アヨ・エデビリ)などを受賞した『一流シェフのファミリーレストラン』は、2022年6月配信のシーズン1が第75回エミー賞の対象に、ゴールデングローブ賞と放送映画批評家協会賞は2023年6月配信のシーズン2が対象となっている。エミー賞授賞式が4カ月遅れたために、ねじれが生じた結果だ。シーズン1では助演女優枠だったアヨ・エデビリは、ドラマの展開を受けてシーズン2からは主演女優賞にカテゴリーを移動している。助演男優賞を受賞したエボン・モス=バクラックの最大の見せ場はシーズン2第7話なので、ストライキ中で可処分時間があったエミー賞投票者が投票日までにシーズン1、2を連続して観た結果と推察できる。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる