『ブギウギ』が伝える、戦地だけではない戦争の恐ろしさ 『エール』兵隊の視点と比較

 NHK連続テレビ小説『ブギウギ』の第14週となる「戦争とうた」が放送された。年末年始をはさみ、通常の放送スケジュールに戻った『ブギウギ』。第66話では、特攻隊として出撃する人々、そして残された家族のあまりに苦しい物語が描かれる。スズ子(趣里)は慰問公演で富山に出向き、戦争で夫を失った静枝(曽我廼家いろは)に向けて「大空の弟」を歌唱した。時を同じくして、りつ子(菊地凛子)も慰問先の特攻隊員たちのために「別れのブルース」を歌唱。

 特攻隊員は「晴れ晴れとゆけます」「覚悟はできました」など感謝と別れの言葉を口にする。静枝も夫とのエピソードを思い出したと顔をほころばせていた。これまで人々の心を明るく照らしてきた音楽は、慰問先で傷付いた心や死と向き合う人々に寄り添うように響いていた。スズ子とりつ子は、改めて戦争のむごさや苦しみに直面し、音楽を通して自分以外の人々に起こっている現実と向き合うことになる。

『エール』森山直太朗の藤堂先生は完璧なキャスティングだった 切なく響いた戦場の歌声

うわあ、これ。間違いなく辛い展開が……。  NHK連続テレビ小説『エール』第75話を観た人は、誰もがそう思っただろう。教師を辞…

 『ブギウギ』と同様に「音楽」を題材にした朝ドラ『エール』では、戦争と音楽をまた違った視点から描いていたのが強く印象に残っている。『エール』の主人公・裕一(窪田正孝)は、作曲家。陸軍が制作する映画の主題歌を作るために予科練を訪問してより深く兵士たちの気持ちを音楽に落とし込もうとするなど、裕一もスズ子らと同様に戦時下における音楽というものに向き合っていく。そんな中、裕一は戦地慰問を命じられ、ビルマに旅立った。そこで生々しく描かれたのは戦地での銃撃戦の様子だった。直前まで裕一と言葉を交わし合っていた日本兵たちが目の前で打たれ、バタバタと死んでいく。恩師である藤堂(森山直太朗)も腹部を撃たれて帰らぬ人となってしまった。

『エール』が朝ドラで描いた生々しい戦場 戦争映画のようなあまりに重い15分間

裕一(窪田正孝)が向かった慰問先には、これまでと変わらない優しい藤堂先生(森山直太朗)がいた。慰問のためにみんなで曲の練習をして…

 残されたのは、流された血でできた水たまりと「何も知りませんでした……ごめんなさい……」とうわ言のように繰り返す裕一の姿だった。『エール』の兵隊の視点からの描写は、はどの朝ドラよりも印象的だったように思う。そこには悲しみや惨さ、苦しさ、葛藤の全てが詰まっており、裕一を演じた窪田正孝の鬼気迫る演技もあいまって視聴者の心に深く刻まれるシーンとなった。

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