『フェルマーの料理』受け継がれた“料理”への壮大な夢 レストランKに訪れた最悪の展開
そんな岳の独白を聞いていた寧々(宮澤エマ)すらも「岳君に希望を託したんです。でも現実は望んだ未来にはならなかった」と言葉を残して店を去り、ついに本当に1人になってしまった岳。もはや誰も助けてくれないのではと思ったその時、彼に手を差し伸べたのは魚見(白石聖)と岳の父・勲(宇梶剛士)だった。思えば、ここまでどんな状況でもこの2人はずっと岳の心の支えだった。「北田はあたしの“ヒーロー”だ」「とっくに強かったんだよ。誰にもなる必要はない」という2人からの温かい優しさは、岳の心をゆっくりと溶かしていく。
ここで、海が岳に伝え続けてきた「わかるように話せ」という言葉が、伏線めいた響きを帯びてくる。これはあくまで筆者の考察の域を出ないが、岳は魚見と父には“わかりやすく”話ができる。それは2人が料理人ではないからこそではあるが、わかりやすく話すことが世界と岳を繋ぐ手段だったことを、海は早い段階で見抜いていたのではないか。料理人としての孤高と、本物の孤独は全くの別物だ。岳が孤独ではなく、孤高であるためには、“わかりやすく”話すことが必要であると、海はわかっていたのかもしれない。
海の居場所を探すべく、岳は渋谷の元を訪れる。渋谷は料理人としての海を終わらせたのは、岳だと話す。そして渋谷の案内によって、海がいた場所が畑であることが明らかになるのだが……。渋谷の言葉を借りれば、「料理を岳に受け継いだ」海が、これから最高の食材となる新しい命を育てているのも納得がいく。レストランKを作った理由を「託すためなんだ」と語る海の料理への想いが、畑という場所そのものに預けられているようにも思えた。
「岳、俺はお前が羨ましかった。本当の主人公はお前だった。俺の方が脇役だった」
諦めたように言葉を紡ぐ海に、「海さんは1人じゃない。味覚がなくても、僕たちは感覚で通じ合えます」「2人でいれば、完璧になれます。海さんの物語は、僕が終わらせない」と岳は強く言い放つ。厨房に向かうラストシーンでは、初心に戻るという意味合いからか、白のコックコートを身に纏った岳の姿も印象的だった。
しかし今回のエピソードで、岳が失ったものの大きさは計り知れない。「もう2度と、この店で岳に料理はさせられない」と岳の目の前に立ちはだかった蘭菜。その瞳の奥は、深い悲しみに揺れているようにも見えた。海を厨房に呼び戻した岳は、自分が“見えなくなったもの”を再び取り戻すことができるのだろうか。
■放送情報
金曜ドラマ『フェルマーの料理』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
U-NEXT、Netflixにて配信中
出演:高橋文哉、志尊淳、小芝風花、板垣李光人、白石聖、細田善彦、久保田紗友、及川光博、宮澤エマ、細田佳央太、宇梶剛士、高橋光臣、仲村トオル
原作:小林有吾『フェルマーの料理』(講談社『月刊少年マガジン』連載)
脚本:渡辺雄介、三浦希紗
プロデューサー:中西真央
演出:石井康晴、平野俊一、大内舞子
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/fermat_tbs2023/
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