中島みゆきの創造力に圧倒される 19曲を収めた劇場版『夜会の軌跡』がついに公開!

『中島みゆき 劇場版 夜会の軌跡』貴重映像も

 中島みゆきほどの存在になると、どういうアーティストなのかを一言で言い表すのは難しい。1975年に「アザミ嬢のララバイ」でデビューして以来、多数のヒットを飛ばし、独自の路線で傑作を生み出してきた。初期のファンなら「わかれうた」や「悪女」のイメージが強いだろうし、90年代には「浅い眠り」や「空と君のあいだに」といったドラマのタイアップによって、あらためてその底力を見せつけた。「時代」や「糸」のように長い年月を経てさらに高い評価を得た楽曲もあるし、研ナオコや工藤静香などに提供した名曲も数えきれないほどだ。当然、40枚以上発表しているオリジナルアルバムも名盤ばかり。その存在感から松任谷由実などと比較されることも多いが、とりわけ“失恋ソング”に関しては群を抜いており、熱狂的なファンの多さは言うまでもない。

 そんな中島みゆきにとって、もうひとつ重要な側面がある。それが「夜会」だ。「夜会」は、通常のツアーとは別軸で1989年にスタートしたステージのシリーズで、「言葉の実験劇場」がコンセプトになっている。当初は、彼女の歌の世界観をより深く表現するために演劇的な要素を取り入れた内容だったが、次第に舞台は大掛かりになり、楽曲や脚本も「夜会」のためのオリジナルを作るようになった。時には豪華ゲストを迎えて祝祭的な要素を感じられることもあるが、その本質は、中島みゆきの歌の世界をより深く表現するための場なのである。

 この夜会の名場面を集めた映画『中島みゆき 劇場版 夜会の軌跡 1989~2002』が、12月8日に公開される。これは2003年に映像作品として発売された『夜会の軌跡 1989〜2002』を、20年ぶりに5.1chサラウンド&劇場用最新デジタルリマスター版として上映するものだ。「夜会」の貴重な映像を劇場のスクリーンと最新の音響設備で体感できる機会は貴重なものになるだろう。そして、あらためて当時の映像からは発見も多いはずだ。

 この映画は、本編に先駆けて、作・編曲家の瀬尾一三のコメントからスタートする。瀬尾一三は日本を代表するアレンジャーであり、1988年以降の中島みゆきの編曲を一手に引き受けていることで知られている。そして「夜会」の仕掛け人のひとりでもある。ここでは「夜会」の趣旨を簡潔に説明してくれるので、「夜会」未体験の方にとっても非常に親切な導入だ。

 オープニングは「夜会」のテーマ曲ともいえる「二隻の舟」からスタートする。これは1995年に開催された展覧会「夜会展」で発表されたもので、ソフト化されていない初回の1989年の貴重な映像も交え、「夜会」のダイジェストといった趣の映像だ。あくまでも舞台の様子は細切れなので、少し雰囲気を垣間見るような感じだが、この1曲だけでも伝わるものがあるだろう。

 そしてここからは、映像記録が残っている1990年以降のステージから順番に、数曲ずつ選曲されている。まずは1990年の「夜会1990」からラストナンバーの「ふたりは」。シンプルなステージでじっくりと歌を聴かせる演出が、初期の「夜会」らしい。がらんとした舞台上にコート姿でドラマティックに歌うさまは圧巻だ。「夜会」が視覚的だけでなく、音楽的にもスケール感があることの象徴といってもいいだろう。

 1991年の「夜会 VOL.3 KAN(邯鄲)TAN」は、中国の故事を脚色した作品で、当時は舞台に本物の雪が降るということでも話題を呼んだ。ここではウサギ姿のコーラス隊2人とコミカルな「キツネ狩りの歌」を披露した後、大ヒット曲「わかれうた」と「ひとり上手」のメドレーに続いていく。この頃の「夜会」はまだ自身の既発曲を織り込んで選曲されており、早着替えをした後、舞台上に座り込んで歌うという通常のコンサートとは違ったステージングが興味深い。

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