中島みゆきの創造力に圧倒される 19曲を収めた劇場版『夜会の軌跡』がついに公開!
1992年の「夜会 VOL.4 金環蝕」あたりから、舞台装置が大掛かりになっていくのがわかる。満天の星空の下、天体望遠鏡を覗きながら「砂の船」を歌う姿が美しく、途中から海辺で撮影された映像が挿入されるのも新しい試みだ。1993年の「夜会 VOL.5 花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせし間に」では、祭りの風景を演出するために大量の風車を飾り、その中で「まつりばやし」を歌い上げる。和の空間で舞を披露する姿に見惚れてしまうだろう。「夜会」が総合芸術であることを、あらためて実感させられる。
1994年の「夜会 VOL.6 シャングリラ」になると、ストーリーは完全に中島みゆきが考案したオリジナルになり、さらに演劇的な要素が強まっていく。アジアの豪奢な屋敷にある大きな階段を登りながら、メイド姿で「黄砂に吹かれて」を歌う。セリフ入りということもあって、ミュージカルに近い印象だ。続く「思い出させてあげる」ではチャイナドレスに身を包む彼女の佇まいに魅了される。1995年の「夜会 VOL.7 2/2」は、完全にすべての楽曲がこの舞台のためのオリジナル曲となった。舞台はベトナムで、実際に現地の市場などの映像がふんだんに使われている。ここで歌われる「紅い河」も、映画と演劇が融合したかのようなユニークな演出だ。
1996年の「夜会 VOL.8 問う女」の演出も凝っている。ラジオのDJと外国人娼婦の2人の女性が空中に浮いた透明の箱の中にいるのだが、これはスキー場のゴンドラをイメージしており、映像とリンクしながら「あなたの言葉がわからない」を歌う。この曲もセリフと歌がミックスされたミュージカル的なナンバーで、中島みゆきの音楽の違う一面が味わえる。1998年の「夜会 VOL.10 海嘯」から抜粋された「白菊」も幻想的な演出が印象的で、月と街灯のあかりがうっすらと灯る中、京劇俳優である張春祥としっとりとデュエットする。静かながらもドラマティックな雰囲気に酔わされるだろう。
この映画で貴重なのが、この後の2000年と2002年に上演された「夜会 VOL.11 ウィンター・ガーデン」と「夜会 VOL.12 ウィンター・ガーデン」だろう。1989年の1回目を除くとすべて映像商品として入手できる「夜会」だが、「ウィンター・ガーデン」に関してはアーティストの意向で商品化されていないからだ。前者では谷山浩子と共演し、後者では急病のために降板した吉田日出子の代役で立った宝塚出身の香坂千晶が重要な役割を担っている。中島みゆきは野良犬役という異色の作品で、他にも能楽師が柏の木の役として舞台を動き回るという演出も実験的で面白い。2つのステージから合わせて7曲を聴くことができ、まさにこの映画のクライマックスと言っていいかもしれない。特にラストの「記憶」は感動的だ。
このように時代を追って「夜会」の名曲をダイジェストで聴いていくと、いかに「夜会」が特別なものだったのかということが実感できるはずだ。音楽や歌唱はもちろんのこと、原作、脚本、演出、そして主演俳優までこなす中島みゆきという超人の姿が浮き彫りになっていくのだが、これだけのクオリティの舞台芸術を、毎年のように新作として生み出していたかと思うと想像を絶する。しかも、この時期の中島みゆきといえば、「夜会」とは別に定期的にアルバムを制作してツアーを行い、さらには「浅い眠り」、「空と君のあいだに」、「旅人のうた」とミリオンヒットまで連発しているのだ。いかに彼女のクリエイティビティが最大限に花開いていたのかが、今となってはよくわかるだろう。そういった中島みゆきの才能とセンス、そして他の追随を許さない唯一無二の世界が、映画『中島みゆき 劇場版 夜会の軌跡 1989~2002』に凝縮されているのである。
■公開情報
『中島みゆき 劇場版 夜会の軌跡 1989~2002』
12月8日(金)全国一斉ロードショー
【入場料金】
前売:3,000円(税込)
当日:3,300円(税込)
【前売券】
全国の上映劇場、または全国コンビニエンスストア(セブンイレブン、ファミリマート、ローソン)にて発売中 ※12月7日(木)まで
詳細はhttps://yakainokiseki-movie.jp/info.htmlにて
配給:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス
2023年/日本/96分/カラー/5.1ch/DCP
©2023 YAMAHA MUSIC ENTERTAINMENT HOLDINGS, INC.
公式サイト:https://yakainokiseki-movie.jp