『駒田蒸留所へようこそ』も学びが盛りだくさん “お仕事シリーズ”が感情移入できる理由

『駒田蒸留所へようこそ』感情移入できる理由

 石川県の温泉旅館が舞台の『花咲くいろは』や、アニメーション制作会社が舞台の『SHIROBAKO』など、働く人々の日常を描いてきたP.A.WORKSの「お仕事シリーズ」の最新作『駒田蒸留所へようこそ』が公開中だ。

 先代である父が亡くなった後、実家の「駒田蒸留所」を継いだ若き社長・駒田琉生が、経営難の蒸留所の立て直しをする中で、災害の影響で製造が難しくなった幻のウイスキー「KOMA」の復活へと奮闘する本作。

 これまでの「お仕事シリーズ」もそうであったが、『駒田蒸留所へようこそ』も、まずはお仕事の描き方が丁寧であった。ジャパニーズウイスキーの蒸留所が舞台の本作は、そもそも蒸留所は何をする場所なのか、どういった工程でウイスキーが製造されるのかを紹介している。ウイスキーを熟成させるには少なくとも3年以上の月日が必要であること、そしてその期間寝かせるための場所も必要であること。ウイスキーについて無知であった筆者だが、作品を通してウイスキーを詳しく知ることができた。

 また、ウイスキーの原酒を組み合わせて製品を造る職人・ブレンダーや、蒸留所の特殊な道具修理を担当する職人、ウイスキーの魅力を伝える広報担当など、駒田蒸留所で働くさまざまなプロたちの描かれ方も印象的だ。どの工程にもその道のプロがいて、ウイスキー最優先で動いている。セリフではなく、彼女たちが働く様子から、心から駒田蒸留所のウイスキーが好きなのだと伝わってくるのだ。

普遍的な悩みを描くからこその“リアル”

 P.A.WORKSが描いてきた「お仕事」は、舞台となる仕事場の再現度が高く、そこで起きるトラブルも現場特有のものだったりする。特に『SHIROBAKO』は、筆者が新卒でアニメーション制作進行職として働いていたのもあり、現場の切迫感や主人公・宮森あおいの感情が痛いほどよくわかった。

 『駒田蒸留所へようこそ』でも、災害によって蒸留所に被害が出てウイスキーが造れなくなってしまったり、ウイスキーを製造してもすぐにお金にはならなかったりと、蒸留所ならではの問題を抱えている。こうした過程が描かれているから、たった一杯のウイスキーが尊く、愛しく感じられるようになった。

 また「お仕事」の現場には、働く人なら一度は経験したことがあるかもしれない、共感できる悩みや失敗もあった。一生懸命頑張ったのに空回ってしまったり、自分が知らなかったことで誰かに迷惑をかけたり。キャラクターたちの悩みや失敗の味を知っている私たちは、作品を通してあの日の苦い記憶を思い出すことができる。

 そして悩みや失敗を、劇的なドラマで解決するわけではない。相手に迷惑をかけたら謝罪する、会社の方向性で迷ったらみんなで話し合って決める。働く中で経験してきたことを作中で描いているので、よりリアルさを感じたのだと思う。

 P.A.WORKSの作品は、特別な1日を描いているのではなく、毎日続く「お仕事」のほんの数日を切り取っている。琉生役を演じた早見沙織も、日常感があるからこそ「(役を)作り込みすぎない」ように意識したと『駒田蒸留所へようこそ』公開記念番組などで話していた。どこかで行われていそうな、自然なテンポ感の会話だったからこそ、感情移入できたのかもしれない。

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