お仕事シリーズに味わい深さをプラス 『駒田蒸留所へようこそ』は喜びと苦しみの総集編に

『駒田蒸留所』は喜びと苦しみの総集編に

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、グレンモーレンジィというスコッチウィスキーが大好きな間瀬が『駒田蒸留所へようこそ』をプッシュします。

『駒田蒸留所へようこそ』

駒田蒸留所へようこそ
 P.A.WORKSの「お仕事アニメ」シリーズ待望の新作が決定、それも劇場版! 第一報を目にした時は思わず興奮してしまった。そして同時に、試写室のスクリーン前に座り暗転する瞬間に「やっぱりもうお腹いっぱいだ……」と感じてしまったのも本音である。30歳目前になる自分にとって、新卒で“ドキドキワクワクで大忙しな新人の日々”もいまや昔。『花咲くいろは』『SHIROBAKO』『サクラクエスト』で感動した自分も過去には確かにいたが、それらで描かれてきたような忙しない日々を曲がりなりにも経験してきたことで、なんというか、新人の奮闘に「微笑ましい」という感情が前に出てきてしまうのだ。

 お仕事エンタメは、自身の経験が浅いほど「仕事ってそういうものだよな……」「自分もこんなやりがいを見つけたい!」など、観たあとに憧れに似た感情を抱きやすい。それがこの種のエンタメの面白さの核となる要素だろう。一方で、勤務年数を重ねてさまざまな経験をしたことによって、新人の奮闘を描く系のお仕事エンタメに本当の意味で共感できなくなっている観客は世の中に大勢いるのだということに、歳をとることで気づいた(「まだ20代のくせに何を言ってるんだ」と思われたらすみません)。

 とはいえ、『駒田蒸留所へようこそ』はそんな「お仕事シリーズ」の正統続編と言える類のもので、今までシリーズを通して描いてきた人間ドラマの粋を集めたような出来栄えだった。主人公の仕事や人生がうまくいかない様子から始まり、苦難を乗り越え視野が広がり、自己実現を叶え、そしてそれが他者をも繋げて新たな未来に向かっていく。本作はまるで“お仕事”をするうえでの喜びと苦しみの総集編のようだった。

 お仕事エンタメで欠かせないものといえば、「万作尽きたーーー!」と叫びたくなる絶望のシチュエーション。『駒田蒸留所へようこそ』では、そうした絶望がこれでもかと描かれていく。メインキャラクターの高橋光太郎はニュースサイトの記者で、自分のやりたいことに出会えていないから仕事に身が入らない。ウィスキーの蒸留所を取材することになっても、下調べをせずに行くから取材先の会社名を間違えてしまう(!)。記事は炎上するわ、人間関係は込み入り、蒸留所もとんでもないことになるわで、鑑賞中は苦難の描写が多すぎるようにも感じられた。

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