『愛の不時着』『ウ・ヨンウ』を輩出! 地上波を圧倒する韓国のケーブルテレビ事情

“傑作の宝庫”韓国のケーブルテレビ事情

 2023年4月28日に開催された“韓国のゴールデングローブ賞”こと百想芸術大賞は、一つの“事件”だった。ドラマ部門の候補作に、国営放送のKBS、民放大手SBSとMBSという地上波放送の作品が一本もなかったのである。ノミネートされていたのは、ケーブルテレビ局やNetflixなど動画配信サービスのオリジナルシリーズばかり。韓国のテレビには、地上波に加え、総合編成局(※1)とケーブルテレビ局による膨大なチャンネル数があることはよく知られているが、今回の事実は量だけではなく質そのものも地上波を凌駕していることの証左でもあった。

 韓国のチャンネル数は、何と100チャンネルを超えるという。日本では1つにつき2500円ほどする有料放送チャンネルが多い中で、韓国ではアパートやマンションでの視聴費用が月額20,000ウォン(約2,280円)程度。それで多くのチャンネルが楽しめるとあって、韓国では、 有料放送サービスへの加入率が9割を超えている(※2)。

 中でも強い制作力を誇り存在感を維持しているのが、JTBCとtvNだ。放送局の名前はうろ覚えでも、『財閥家の末息子』や『愛の不時着』というタイトルにピンと来る人が多いのではないだろうか。前者はJTBC、後者はtvNによるドラマシリーズで、いずれも近年の韓国ドラマ視聴率ランキングでトップクラスにランクインしている。今回は、この2大放送局をメインに、韓国のケーブルテレビ局事情を解説してみよう。

『梨泰院クラス』『夫婦の世界』を輩出! エンタメに強いJTBC

『梨泰院クラス』(JTBC公式サイトより)

 大手新聞社の中央日報を擁する中央グループ系列の総合編成チャンネルとして、JTBCは2011年12月1日に誕生した。2018年末~2019年初め、富裕層だけが住む高級住宅街を舞台に、韓国の熾烈な競争社会の縮図を描く『SKYキャッスル~上流階級の妻たち』が最高視聴率23%超え(ニールセンコリア有料プラットフォーム視聴率基準)を叩き出し、非地上波最高視聴率を達成。さらに2020年には『夫婦の世界』が28%を記録し、再び最高視聴率更新した。そのほか、『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』は、年上ヒロインのソン・イェジンを支えるチョン・ヘインのキャラクターが大人気となり、年下男性ブームを巻き起こし、主演を務めたパク・ソジュンの出世作『梨泰院クラス』は、韓国ドラマを世界的に認知させ第4次韓流ブームの火付け役となった。このようにJTBCのドラマは、視聴率などの話題性、商業性の追求という面で特徴的だ。

 さらに興味深いのは、母体である中央日報が保守系である一方で、放送局としてのJTBCは中道派を掲げている点だ。2023年9月に代表を退いた、ジャーナリストである元社長ソン・ソッキによるポリシーだった。

 最も記憶に残っているのは、2014年4月に起きたセウォル号沈没事故をめぐる“ダイビング・ベル問題”の取り扱いである。当時はダイビング・ベル(救助用の潜水鐘)を投下したことにより海難救助隊の活動に支障を来したと非難を浴びたが、JTBCはダイビング・ベル設置に携わったアルファ潜水技術公社のイ・ジョンイン代表を番組に召喚し、説明させた。こうした報道は稀で、政治的公平性を保持する姿勢の表れであった。

ドラマを観るならtvN! 地上波を圧倒する最大手チャンネル

『シュルプ』(vN公式サイトより)

 CJ ENMの有料放送チャンネルとして、2006年10月9日に開局したのがtvN。韓国のエンターテインメントの最大手らしく、ドラマ・芸能などエンターテインメント分野の自主制作放送をメインコンテンツに、時事・教養番組も編成する総合バラエティチャンネルだ。

 ケーブルテレビに潤沢な資金と人材が集まった理由として、韓国では2019年の放送法の改正に至るまで、地上波の番組途中に広告を入れられなかったことが挙げられる。放送法が異なり広告の規制がないケーブルテレビ局にスポンサーが増えたことで資金力を得て、それに伴い人材を獲得したのだった(※3)。tvNの最大の強みも例にもれず、CJ ENMの莫大な資金力を生かした制作力と人材にある。子会社にはドラマの企画や制作を担うプロダクションのスタジオドラゴンがあり、クレジットされているドラマは、チョ・スンウとペ・ドゥナによる大ヒットサスペンス『秘密の森』、K-POPアイドルチャ・ウヌの俳優として名実ともにステップアップさせた『女神降臨』といったヒット作ばかり。今や“名作の裏にスタジオドラゴンあり”が、韓国ドラマファンの間で定説だ。

 そして地上波での番組制作に限界を感じていたキム・ウォンソク(『ミセンー未生ー』)、イ・ウンボク(『トッケビ -君がくれた愛しい日々-』)、ナ・ヨンソク(バラエティコンテンツ『三食ごはん』シリーズ)などの名プロデューサーを次々とヘッドハンティングしたことも、コンテンツ力に拍車をかけた。

 それだけでなく、新人教育にも力を入れている。たとえば2022年に放送された、キム・ヘス主演のフュージョン時代劇『シュルプ』の脚本を手がけたパク・バラは、本作がデビューとなる新人作家で、CJ ENMが企画した発掘・育成プロジェクト「O’PEN」の第3期生だ。ドラマや映画といったクリエイティブを生み出すシステムを活性化し、新人作家のデビューを支援する「O’PEN」では、製作支援金はもちろん、プライベートな執筆環境の提供や、先輩作家によるメンタリング、シナリオハンティングのための現場取材支援、製作会社とクリエイターを結ぶビジネスマッチングまで強力にバックアップしている。パク・バラによると、『シュルプ』は2019年、「O’PEN」のカリキュラムとしてソウル市内の古宮、昌徳宮の見学と歴史学者によるアドバイスを借りて企画された。「史劇ドラマの準備のため、当初は本やインターネット情報を探すしかなかった。しかし直接昌徳宮を見学し、専門家の意見を聞いたことで、一人で取り組んでいたときと見えるものが違う」と感想を明かしている(※4)。既存の人気プロデューサーだけでなく、このように作り手の育成にも熱心であるからこそ良い作品が誕生するのだろう。

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