『日曜の夜ぐらいは...』は「今の時代のキツさを描きたかった」 脚本家・岡田惠和に聞く

岡田惠和が『日ぐら』を語り尽くす

 『日曜の夜ぐらいは...』のBlu-ray&DVD-BOXが11月8日に発売された。

 2023年4月からABCテレビが日曜22時に新設したドラマ枠の第1弾として放送された本作は、ラジオ番組のバスツアーで知り合った3人の女性の友情を描いたドラマだ。

 20代女性のキツい日常を描いたシリアスな物語として始まった本作は、3000万円の宝くじが当選するという奇跡が起こって以降、予測できない展開が毎週続き「果たして3人は幸せになれるのか?」と、多くの視聴者が自分のことのように心配して見守るドラマとなった。

 リアルサウンド映画部では、Blu-ray&DVDの発売を記念して、本作の脚本を手がけた岡田惠和にインタビュー。

 当初は岡田が1999年に執筆した『彼女たちの時代』(フジテレビ系)の令和版となるかと思われた本作は、話数を重ねるごとに『ちゅらさん』(NHK総合)や『銭ゲバ』(日本テレビ系)といった岡田の過去作を彷彿とさせる内容となっていった。

 混迷する2023年に、岡田はどのような気持ちで本作を書き上げたのか?(成馬零一)

岡田惠和が「使命感」を持って書いてきたこと

ーー『日曜の夜ぐらいは...』の企画は、どのような経緯で始まったのでしょうか?

岡田惠和(以下、岡田):ABCテレビさんで新しい枠が始まるので、できればオリジナルで勝負したいとお誘いを受けたのが始まりでした。依頼された内容は「若い世代に刺さるドラマを書いてほしい」というものだったので、20代後半から30代前半ぐらいの女性3人+男性1人という座組みで、今の時代を描いたドラマを作ろうと思いました。

ーーシナリオブックも読ませていただいたのですが、情景描写が詩的で、地の文が独特だなぁと思いました。

岡田:今回は、微妙なニュアンスをちゃんと伝えたかったので、ト書きやセリフにしない心情を書き込もうという意思はあったと思います。特に序盤は、仕事以外では何も喋らない3人の状況について書いていたので、情報として伝わってほしいという思いもありました。

ーー監督や役者に向けて、作品のイメージを伝えているわけですね。

岡田:「こうしてほしい」というよりも「こういうことだと思うんです」というニュアンスですね。その通りに撮らなくてもいいですし、「イメージの上を行ってほしい」と思うところもありました。ただ、みんなが共有するものとしての台本はあるので、自分が出演していないシーンで何が起きているのかを感じてほしいという思いがあって、今回は情報過多だったと思います。

ーー3人の女性のキャラクターはどのようにして組み立てていったのですか?

岡田:制作者の都合でキャラクターを上手に書き分けると、「そんな3人組いないよ」という感じになってしまうので、多少キャラクターが被っていようと、自分が好きな3人にしようと思いました。

ーー配役は後から決まったのですか?

岡田:同時進行ですね。特に女子3人はバランスがあるので、探りながらという感じで。途中でキャストが決まり、各方面にドライブがかかっていったという感じです。今回は当て書きの部分が多く、どんどん増えていきました。

ーー3人の女性について教えてください。まず、清野菜名さんが演じた“おだいり様”こと岸田サチについて。

岡田:スタート時点では、一番寡黙な人にしたいと思いました。背負っているものがしんどくて、それも、文学的なしんどさというよりは現実的なしんどさを抱えている。それでも、そのしんどさを誰かのせいにせず、自分なりの態度表明をしながら、きちんとこなしていく人。僕が思うに、最近一番多いタイプなんじゃないかと思います。清野菜名さんは内面の強さ、特に「潔さ」がハマると思いました。あと、自転車に乗せたかったです。第1話の冒頭はセリフがほとんどなくて、自転車でファミレスに向かう中で、この人の抱えているものが匂ってくる。あの漕ぎっぷりは良かったですね。

ーー岸井ゆきのさんが演じた“ケンタ”こと野田翔子は、ざっくり言うとヤンキーです。

岡田:3人の中では状況的には一番恵まれていたけど、誰かのせいでも状況のせいでもなく、「ひょっとしたら自分のせいでこうなってしまったのか?」という悩みを抱えている。彼女の悩みが一番文学的で、経済的な問題とは違うしんどさを代表してほしいと思って書いた役です。人との接し方がツッコミ過多で本人には悪気はないんだけど、いつの間にか人間関係で疎外されてしまい、その理由も自分でもよくわからないで「うざいのかな、自分?」と思うけど、新しい人と出会うと、同じことを繰り返してしまって、いつも一人になってしまう。企画段階では元不良というイメージでしたが、岸井さんが演じると決まってから、より複雑なキャラクターに変わっていったと思います。岸井さんの普段のイメージとは違うのですが、なんでこんな変な服が似合うんだろうというぐらい、ハマりました。

ーー生見愛瑠さんが演じる、“わぶちゃん”こと樋口若葉は、劇中でも語られていますが、文章のような喋り方をしてしまう子ですね。すらすらと長文で喋る感じが面白かったです。

岡田:コミュニケーションを持った暮らしをしていない人ですね。だから、ばあちゃん(宮本信子)以外の人と喋った時に、会話の文法がおかしな言葉遣いになってしまう。彼女が一番「そこまでしてそこにいないといけないのか?」と思うくらいしんどい環境にいると思うんですよね。でもばあちゃんとの関係はとても良くて、その屈折しているけどすこやかな感じを生見さんは自然に演じてくれた。生見さんはたぶん相当、記憶力とか滑舌がいいんだと思います。あの口調は雰囲気だけでやると伝わらないんですよ。一言一句変えずに記憶して喋っているからこそ、うまくハマったのだと思います。

ーーコミュニケーションの作法に3人の個性が表れていますね。

岡田:ドラマの登場人物にはならないけれど、今は、こういう子たちがたくさんいるんじゃないかなぁと思って書きました。

ーーこれまで岡田さんが書いてきたキャラクター、例えば『彼女たちの時代』の3人の女性との違いは感じましたか?

岡田:3人の女性の友情を描いているという意味では同じですが、社会の状況が大きく違いますよね。恐れ多いのですが『彼女たちの時代』は、山田太一さんの『想い出づくり。』(TBS系)に大きな影響を受けた作品で、リスペクトを込めて書かせていただいたドラマで。

ーー『想い出づくり。』は1981年の作品。『彼女たちの時代』は1999年の作品でしたね。

岡田:『想い出づくり。』の時は、25歳になると行き遅れと言われた時代に、女子たちが何か思い出が欲しいと思って行動するのですが、今、振り返ると、まだ景気が良かった時代の飢餓感が描かれていた。『彼女たちの時代』の時はもうちょっと景気が悪くなっていて、「自分に何ができるのか?」「恋愛だけなのだろうか?」と悩んでいるのですが、今回はそれどころじゃないという感じがありました。

ーー3作を並べると、昭和、平成、令和という感じで、順番に観ると、時代ってこんなに変わるのかと思いました。同時に、ドラマではあまり描かれないですが、いつの時代でも彼女たちのような人たちはいて、岡田さんはこういう人たちのドラマをずっと書いてきたんだと、あらためて実感しました。

岡田:そうですね。それは偉そうに言うと「使命感」を持って書いてきたことだと思います。

ーーただ、第1話では現実に根ざしたシリアスなドラマになるかと思っていたら、第2話で宝くじに当たったので、びっくりました。

岡田:3000万円という、大金だけど、一生それで遊んで暮らせるわけではない。下手をするとあっという間に失ってしまうような額のお金を手に入れた3人が、お金をいっしょに使う話としてスタートしました。不思議なことに、宝くじを買う場面があるのに、誰も当たると思わないんですよね。普通、あのシーンは当たりますよ(笑)。宝くじを買って外れるってシーンはあまりないので。

ーー3人の別れ方が印象的だったので、宝くじのことは忘れちゃうんですよね。

岡田:大事な場面として撮られてないんですよね。サービスエリアで買ったせいで、より当たらなそうに見える。

ーー宝くじに当たったことにもびっくりしたのですが、市川みね(岡山天音)が、サチと翔子と2回も偶然出会うことにも、驚きました。

岡田:みねくんを天使みたいに描きたいという意図もありましたが、第2話は虚構性の高い話にしようと思いました。

ーー『彼女たちの時代』だと思って観ていたら、突然『ちゅらさん』に変わったと思って。一本のドラマの中でここまでリアリティラインを変えるのかと、衝撃でした。

岡田:僕が書いてきたドラマは大きく分けると『若者のすべて』(フジテレビ系)や『彼女たちの時代』といったリアリティベースのドラマと、『南くんの恋人』(テレビ朝日系)や『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)といったファンタジーベースのドラマがあるのですが、今回はあえて、ごちゃまぜにして全部乗せにしたいと思いました。

ーー確かに今作は、岡田さんの過去作を思い出す場面が多かったです。子供のお金を奪おうとする親の描き方は『銭ゲバ』を連想しました。

岡田:天使のようなみねくんの描き方や、カフェが見つかる過程は、フィクション性を強調しています。今回は、この場で書かせていただけることが嬉しかったので、持ち札は全部出そうと思いました。自分の“技”といったらおかしいですけれど、引き出しは全部開けようという気持ちでした。

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