『ゆとりですがなにか』に刻まれた宮藤官九郎の“変化” 劇場版は社会派コメディの傑作に

『ゆとりですがなにか』宮藤官九郎の“変化”

 『ゆとりですがなにか』のシナリオブック(KADOKAWA)に書かれた宮藤の「まえがき」によると、水田伸生が坂元裕二の脚本をドラマ化した『Mother』(日本テレビ系)や『Woman』(日本テレビ系)を観て「水田監督とシリアスな作品を作ってみたい」と思ったのが、本作が生まれたきっかけだったそうだ。

 本作で宮藤は書き方を意識的に変えており、時間の巻き戻しといった特殊な手法を使わず「物語の力」だけで勝負しようと考えた。また、ゆとり世代のサラリーマンに多数取材し、当事者の声をダイレクトに反映させようと心掛けられた。

 一方、「ゆとり世代」を題材にした理由については、若者が言う「すいません、自分ゆとりなんで」という言葉を耳にする機会が増えたことがきっかけだったそうだ。

 そして、若者の言う「ゆとりなんで」という言葉と自分たちが言う「最近の若い奴らって」という言葉は実は同義語で「世代間の思考停止を招く呪いの言葉なんじゃないか。考えるのを諦めず、ひたすら掘り下げたら何か見つかるんじゃないか」と思い短いプロットを書いたという。

 第1話で坂間たちは、就職の時はリーマンショックが起きて不景気で、社会に出た途端に3.11に直面し「ゆとり」を感じたことは一度もなかったと怒りをあらわにしている。

 「ゆとり」という言葉の背後にある違和感を掘り下げることで宮藤は、彼らの目に映る日本社会を紡ぎ出し、山田太一脚本の『ふぞろいの林檎たち』(TBS系)のゆとり世代版とでも言うような、社会派青春ドラマを生み出した。

 おそらく本作を書いたことで、社会と自分の距離感を作品に落とし込む方法論を宮藤は発見したのだろう。

 デビュー当時から宮藤は、テレビ番組や音楽といった、ポップカルチャーを題材にすることが多かった。しかし、『俺の家の話』(TBS系)や『離婚しようよ』(Netflix)といった近年のドラマでは、女性差別や政治の問題といった社会的なテーマを題材にする機会が増えている。その転機となったのは、間違いなく『ゆとりですがなにか』だ。

 あらゆる社会問題を「笑い」に変えて打ち返すことで、現在の日本の空気を描写することに成功した、社会派コメディ映画の傑作である。

■公開情報
『ゆとりですがなにか インターナショナル』
全国公開中
出演:岡田将生、松坂桃李、柳楽優弥、安藤サクラ、仲野太賀、吉岡里帆、島崎遥香、手塚とおる、髙橋洋、青木さやか、佐津川愛美、矢本悠馬、加藤諒、少路勇介、長村航希、小松和重、加藤清史郎、新谷ゆづみ、林家たま平、厚切りジェイソン、徳井優、木南晴夏、上白石萌歌、吉原光夫、でんでん、中田喜子、吉田鋼太郎
脚本:宮藤官九郎
監督:水田伸生
プロデューサー:藤村直人、仲野尚之(日テレ アックスオン)
主題歌:「ノンフィクションの僕らよ」感覚ピエロ(JIJI.Inc)
製作:日テレ アックスオン
配給:東宝
©2023「ゆとりですがなにか」製作委員会
公式サイト:https://yutori-movie.jp/
公式X(旧Twitter):@yutori_ntv
公式Instagram:@yutori_movie
公式TikTok:@yutori_movie

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる