『ゆとりですがなにか』に刻まれた宮藤官九郎の“変化” 劇場版は社会派コメディの傑作に

『ゆとりですがなにか』宮藤官九郎の“変化”

 水田伸生監督、宮藤官九郎脚本の映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』が劇場公開された。

 本作は、2016年に2人が手がけたテレビドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)を映画化したものだ。

 主人公は、ゆとり第一世代と呼ばれる1987年生まれの男性3人。食品メーカー「みんみんホールディングス」の元社員で、現在は実家の坂間酒造で働く坂間正和(岡田将生)、女性経験ゼロの小学校教師・山路一豊(松坂桃李)。東大受験に失敗して11浪中の一児の父だったが、新事業をおこなうために中国へと旅立った道上まりぶ(柳楽優弥)。

 『ゆとりですがなにか』は、坂間たちゆとり第一世代の若者が社会で直面する困難を描いた青春ドラマだったが、本作が秀逸だったのは、上司や父親といった上の世代との衝突だけでなく、同じゆとり世代でも年齢が違うと理解できないという下の世代とのズレを描いたことだ。

 1993年生まれで、当初はゆとりモンスターと呼ばれていた坂間の後輩の山岸ひろむ(仲野太賀)、教育実習生として山路と知り合った1994年生まれの佐倉悦子(吉岡里帆)、坂間正和の妹で就活生だった1995年生まれの坂間ゆとり(島崎遥香)といった、ゆとり世代ど真ん中の若者たちの常識外れの行動に坂間たちは翻弄され、下の世代と向き合うことで少しずつ変わっていった。

 そして、ドラマが始まった時は29歳だった坂間たちゆとり第一世代は、映画では30代後半となり、今度は「働き方改革」「多様性」「グローバル化」といった新しい価値観に翻弄される。「ゆとりモンスター」と呼ばれた山岸は、Z世代の若手社員に振り回され、山路はアメリカ人とタイ人の子供を受け持つこととなり、同時にLGBTQ+という概念について子供たちにどう教えればいいのかと思い悩む。

 一方、坂間は「みんみんホールディングス」が韓国企業に買収されたことで、坂間酒造の日本酒「ゆとりの民」の独占契約が打ち切られそうになる。そんな中、事業に失敗した道上まりぶが日本に帰国し、坂間酒造に住み込みで働くことになるのだが、実は彼はある秘密を抱えていた。

 タイトルに「インターナショナル(INTERNATIONARL)」(国際的)とあるが、これはテレビドラマを映画化した際によくある、スケールを広げるために物語の海外を舞台に移したということではなく、国際化して、さまざまな国の人々と交流することが当たり前となった、2020年代の日本の話だということを示している。

 同時に本作では、いつの間にか古い価値観の側の人間になってしまった、ゆとり世代の困惑も描かれている。「価値観をアップデートしろ」と次々と押し寄せてくる新しい時代の「正しさ」に対して、坂間たちがどのように向き合っていくのかを「笑える物語」として描いたことが、この映画の魅力だが、それはテレビシーズの時から一貫している本作のスタンスだ。

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