日本のエンタメ界における大沢たかおの存在感 『沈黙の艦隊』『キングダム』とハマり役続く

日本のエンタメ界における大沢たかおの存在感

 しかし、彼はあくまでも一人の人間である。自分の暮らす日本や世界に対して揺れる想いを持っているからこそ、ある種の過激な行動を起こしている。つまり表向きの行動の裏には、そこへと至る心の動きがあったわけだ。一見しただけだと怪物のように映るかもしれない。だがそれだと作品全体に広がる緊張感は海江田の支配的なものになり、彼が世界に対して訴えようとしている想いは霞んでしまう。そうなればこの作品が持つ真の狙いは私たち観客にまでは届かないだろう。

 まず前提として、彼が人間であること。そして特別な信念に支えられた思想の持ち主であること。これらに重きを置いたうえでパフォーマンスを展開することにより、生きた海江田像が立ち上がる。本作の持つ凄まじい緊張感は、生々しさにこそあるのだ。大沢は主演だけでなくプロデューサーも務めているが、これらを線で結んだとき、大沢たかおという一人の人間が何を思い、エンターテインメントの力で何を世に訴えようとしているのかが分かるだろう。

 さて、笑顔を絶やさず緊張感を強いるキャラクターといえば、『キングダム』シリーズ(2019年〜)で大沢が演じている王騎将軍もそうだ。『沈黙の艦隊』で非現実的なキャラクターに生々しさを与えているのとは異なり、こちらでは常軌を逸した肉体改造を行っている。その結果、マンガからそのまま飛び出してきたような王騎像を立ち上げることに成功。本稿の冒頭のほうで「ハマり役にして当たり役を次々と得て」などと記したが、何も運良くハマる役を得ているわけではなく、実際には自らモノにし、当ててみせているのだ。

 この10月からは主演ドラマ『ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ〜』(フジテレビ系)の放送がはじまる。大沢が連続ドラマに出演するのは、じつに12年ぶりのことだ。プロデュースに、異次元の肉体改造、そして連ドラ。やはりいま、エンタメ界における大沢たかおの存在感がハンパない。

■公開情報
『沈黙の艦隊』
全国公開中
出演:大沢たかお、玉木宏、上戸彩、ユースケ・サンタマリア、中村倫也、中村蒼、松岡広大、前原滉、水川あさみ、岡本多緒、手塚とおる、酒向芳、笹野高史、アレクス・ポーノヴィッチ、リック・アムスバリー、橋爪功、夏川結衣、江口洋介
原作:かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』(講談社)
プロデューサー:大沢たかお、松橋真三
監督:吉野耕平
脚本:髙井光
音楽:池頼広
主題歌:Ado「DIGNITY」(ユニバーサル ミュージック)/楽曲提供:B’z
製作:Amazon Studios
制作プロダクション:CREDEUS
協力:防衛省・海上自衛隊
配給:東宝
©かわぐちかいじ/講談社 ©2023 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES. All Rights Reserved.  
公式サイト:silent-service.jp
公式X(旧Twitter):@silent_KANTAI

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