アニメの“主役交代”はネガティブではない 『スラダン』『SAND LAND』で描かれた新視点
2024年1月26日公開予定の映画『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』も含まれる『機動戦士ガンダムSEED』のシリーズも、“主役交代”が話題になった作品だ。2002年に放送が始まった『機動戦士ガンダムSEED』では、幼なじみだったキラ・ヤマトとアスラン・ザラが地球側とプラント側に別れて激突するストーリーが描かれた。キラは地球にありながら中立を貫くオーブの立場に沿った第三勢力につき、アスランもプラントの穏健派に与してやがてキラと合流し、地球連合とプラントの戦いを終わらせようとする。
結果、平和がもたらされたかに見えた世界で起こった新たな戦乱を描いたのが、2004年に始まった続編『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』だ。ここで新たな主人公として立ったのがオーブで暮らしていたシン・アスカで、大西洋連邦によるオーブ侵攻で家族を失った過去を抱え、強さことが正義といった考えを抱くようになって、プラントを率いるギルバート・デュランダルに心酔する。
キラとアスランが戦いを経て得た融和への思いを踏みにじり、すべてを振り出しに戻すような振る舞いだが、そんなシンの存在が平和は決して簡単にはもたらされないことを知らしめる。憎しみの気持ちが簡単には消えないことも。3人目の主人公を立てて視点を変えたことで物語世界が広がり、俯瞰してみられるようになった。
視点が変われば見える世界も違ってくる。それが“主役交代”がもたらす効果だとしたら、小池健監督による『LUPIN THE IIIRD』シリーズも、ルパン三世以外を主役にすることで次元大介や石川五ェ門、峰不二子といったキャラクターたちの真価が見え、そしてルパン三世自身の仲間を思う心情も見えてくる作品だった。続きが作られ、それが銭形警部を主役にしたものなら、どうして銭形があそこまでルパンに執着するのか、そんな銭形をルパンがどう思っているのかが分かって、ルーティンと化した追いつ追われつの関係に深みが出るだろう。
新作で気になるのが、鋭意制作中と言われる『機動警察パトレイバーEZY』だ。元となる『機動警察パトレイバー』は、警察用レイバー(パトレイバー)を駆る特車二課に所属する泉野明と篠原遊馬を中心に、同僚や後藤隊長らの活躍を描くシリーズだが、押井守監督による『機動警察パトレイバー2 the Movie』では、後藤隊長が主役のように振る舞って、日本の平和を揺るがすテロ計画の阻止に動く。近未来が舞台の警察物から一種の謀略物へと変わった結果、アニメを普段は観ない層にもアピールする作品となった。
『機動警察パトレイバーEZY』はさらに変わって、野明や遊馬や後藤隊長とは違ったキャラクターたちによる活躍が描かれるという。これによって個々のキャラクターの振る舞いに向けられていた目線が、今一度、レイバーという人型ロボットが運用された世界で起こりえる事態へと向くようになって、未来への関心をかきたてる作品となるだろう。
物語が持つ世界観そのものへと視点を変える効果が“主役交代”にはあって、それが作品なりシリーズの再活性化を促すといえそうだ。
■公開情報
『SAND LAND』
全国東宝系にて公開中
キャスト:田村睦心、山路和弘、チョー、鶴岡聡、飛田展男、大塚明夫、茶風林、杉田智和、遊佐浩二、吉野裕行、こばたけまさふみ
監督:横嶋俊久
脚本:森ハヤシ
ディレクションアドバイザー : 神志那弘志
音響監督:岩浪美和
音楽:菅野祐悟
アニメーション制作:サンライズ、神風動画、ANIMA
配給:東宝
©バード・スタジオ/集英社 ©SAND LAND 製作委員会
公式サイト:https://sandland.jp/
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